理解し難い「水際対策の厳格化」

 厚生労働省感染症対策について強く意識したのは新型インフルエンザの水際対策が叫ばれた時代。その頃から、色々思うところはありながら、まああちこちからいろんな文句言われて大変だよね、と同情的なところもありましたが、昨今の新型コロナウイルス感染症に対する水際対策に伴う邦人入国拒否の件に至るともう全く擁護できないというか、世界に恥をばらまいているようにしか見えません。まともな判断できる人いないんでしょうか?

 原則として日本人以外は日本への入国が著しく困難となっている昨今、外国人向けの発信はどうでもいいと思っているのか、完全に明後日の方を向いてしまった「水際対策の厳格化」について、最も詳細な説明は日本語でしか発信されていません。ところどころ英語の文章もあるにはあるんですが、日本語での説明を完全に反映したものにはなっておらず、これは海外でトラブルに巻き込まれる小さくはない理由の一つだと思っています。

 なお、肝心の日本語の説明には、随所に「有効とみなすこともある」などの非常に日本的な表現が多く、これは海外で理解を得るのが難しいことが多くて、「結局何が必要で、何が不要なの?」と苛つかれるだけです。「条件を満たせば任意のフォーマットでもよい」というのも日本語でしか明確には書かれていません。まあ基本的には指定フォーマットを使ってもらいたいという本心があるからだとは思います。日本入国要件を満たす検査証明書を持っていない乗客は乗せるなという、日本政府から航空各社への通達を受け、また、実際に発生した複数の送還事例などもあいまって、航空会社もかなり慎重になっているのか、実際には要件を満たしているのに「厚労省指定の書式」ではないことなどを理由とした搭乗拒否が複数発生しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00248.html

 多くの国で大量の検査を捌く必要があることや、保健省などとの情報の連動の必要性などを受け、既に新型コロナウイルスの検査はシステム化され、フォーマットもそれぞれの国ごとに確立していることが多いです。QRコードなどを用い、オンライン照合で偽造を防ぐ手段なども設計されていたりもします。そうした状況下、独自の書式へ記入を求めるのは、日本の事情しか知らない方々が想像しているよりもはるかに難しいことが多いのです。当初、英語版の指定フォームしか準備されていなかったのを、多言語化したから指定のフォーマットを使ってね、という案内がされましたが、もともと言葉の問題というよりは、そうしたシステムの問題であって、これは相当にズレた感覚だと思います。

 もちろん、入国の要件満たしていないんだから、入国できなかったことに文句を言う方がおかしい、というのは正論と言えば正論です。しかしながら、日本に到着した自国民を送還するというのはやはり理解し難いです。書類不備の渡航者に対して、感染の可能性を本気で心配するのであれば、その場で隔離すればいいだけの話で、そこからまた飛行機に乗せて送還することには、むしろ大きなリスクが伴うんですが、そのあたりどう考えているんでしょうか。

 また、水際での書類不備というのは、もちろん本当の不備もあるのだろうけれども、多くは国際的に見れば標準的な検査を受け陰性となったもののようです。その「不備」の結果、本気でその方の感染を心配するのであれば、移動中の発症や重症化、他の乗客への感染リスクなどがあるわけです。送還先に再入国できないようなケースもあると思いますし、トランジット空港で立ち往生ということも考えられます。先述のように、仮に外国籍者であっても、真の意味で感染の可能性に対応するのであれば、日本において隔離なり追加検査なり満足行くまでやるべきと思いますし、日本国籍者であるならば、なおさら自国で隔離するのが筋だと強く思います。

 現に国境までたどり着いた自国民を入国させないというのは、検疫を理由としたところで、国際法違反だとか憲法違反だとかいうような意見も耳にします。このあたりの法律関連、あまり詳しくないので掘り下げて確認はしていません。ある公的な立場の方は国家賠償請求したら勝てるんじゃないかということを言ってましたがどうなんでしょうか。

 物理的にフライトがなく帰れないことはあるとして、日本にたどり着きさえすれば、日本人が入国できないことは無いというのは、以前から漠然とそういう理解をしていたので、当初、検疫書類不備による日本人送還のニュースは信じがたかったのですが、複数報道や、別途知人等を通じて入ってくる衝撃のケースの数々に、本当に現実社会の出来事なのか、ずっと夢の中にいるのではないかと疑っていました。

 海外在住者がやっとの思いで帰国のタイミングを調整するのに際して、「感染持ち込むな」「帰ってくるな」とか、そういう声があることは承知していますが、いろいろ気をつけながら、そう頻繁には帰れない中、長期の隔離なども受け入れて一時帰国するだけの理由がそれぞれあるんです。まあ何をしても叩かれそうな気もするのでおとなしくはしているつもりですが。

 一方で、あまりにも科学的事実を無視した方向へ大きく振れて、標準的な感染対策を否定するような人々にもうんざりはしています。この長期に渡る世界的な感染症対策には、もちろんどこかでケリをつけてもらいたいと思いつつも、現時点でノーガードというのは現代標準医学を修めて医師免許を取得した人がすべき主張では無いというのは以前から述べているとおりです。