「こんな内科医ですみません」-0500-

 僕がそこへたどり着いたのは、全くの偶然であったし、正直、最初はただのコンパ日記としての印象しかなく、第一印象がそれほど良かったとは言えないのですが、恐らく、医者のテキストサイトの中では、最も有名な部類に入る「こんな内科医ですみません」というサイトがあります。ええと、明らかに僕とは系統の違うテキストを書いています。

 ただ、何度かのぞいているうちに、一見ただのふざけた日記とも言えるようなテキストの根底に、医療に対する真摯さと、僕も再三訴えているような、医者にも休息や人間としての生活が必要だというようなテーマを感じて、後々アンテナやリンクにも加えて、ちょくちょく読ませて頂くようになりました。なかなか深いと思います。

 僕の書きためてきたテキストを出版する計画があることは、サイト上でも以前より告知していますが、彼のサイトもまた、出版の話があるということを知ったのは、だいぶ前に頂いたメールでした。5/21に満を持してサイト上に出版告知があったかと思えば、あっというまに白紙に戻ってしまい、一読者としては残念な思いです。

 出版ということを、すぐに印税やらなにやらに結びつけて、あるいは、その出版に絡んで、過去ログの一部が削除されたことなどに関して、様々なリアクションがあったようで、少なからず、批判やら暴言やらがあったようです。元来個人のウェブサイトは、個人が好きなように運営しているものであって、過去ログがどんどん消えていくようなテキストサイトはそれほど珍しくないし、病院という舞台を描く日記サイトのようなところでは、場合によっては、いくらぼかして書いていても、守秘義務に触れるとか、その他なんらかのトラブルを生じないとは言えないわけで、場合によっては、長いことログを残しておかないほうがいい場合もあるかも知れません。

 僕の場合も、さすがに医局の人間には知られていないと思っていたのに、意外にたくさん知られているようで、ログを抹消したいような衝動にも駆られます。しかし、せっかく書いたものを公開し続けたいという思いの方が勝っているので、いまのところ数年分の思いがそのまま残っているのです。守秘義務や、他人のプライバシーにはとても気をつけてきたつもりだし、時に僕が職場とか大学に対して批判的な物言いをしていることについても、その多くは、僕は割と果敢にというか、向こう見ずというか、当人たちに直接伝えていることが多いので、まあ、ばれたらばれたで仕方がないとは思っています。

 ただ、なんというか、このサイトにおいて、僕がザウエルという別の名前を名乗って、あくまで病院とも学校とも関係のないところで勝手なことを言っているという、そういうことが重要だと思っています。

 さて、彼自身、出版社から求められた過去ログ削除には抵抗があったようです。しかし、そういう犠牲を払ったとしても、物書きとして、自分のテキストをより多くの人々の目に触れさせたいと思う気持ちが、出版に憧れを抱かせるというのは、僕には容易に理解できます。僕は「本」というアナログな媒体に並々ならぬ思い入れがあるので、物書きとして、やはり、本を出すという行為は、大いなる夢だと思うのです。

 金儲けという批判についてですが、お金になる文章が書けるのであれば、それをお金にするのは、資本主義社会において、なんら責められることのないことだと思うのです。ウェブサイトを無料で公開するのも、有料にするのもまた、その開設者、著作者の自由だと思います。わざわざいうまでもなく、当たり前のことです。仮に、彼の出版が印税を目的にしたものであったとしても、それを責める理由が全くみつかりません。ただ、今の出版業界や、僕ら医者のおかれている環境を考えたら、出版と言うことが、そう簡単には、印税を目当てにした金儲けの手段にはなり得ないのは自明です。僕らが手っ取り早く収入を得るには、やはり「医師免許」の資格を用いるのが一番です。本を出すに至る大いなる手間を考えれば、週末の当直を増やした方が手っ取り早いに決まってます。第一、金のことだけ考えていたら、大学なんてとこに縛られてられません。僕はどっちかというと、逆に金を払ってでも休みをもらいたいです。

 僕の場合、完全なる企画出版ということではなく、僕も費用を負担する、協力出版の形態をとっています。元がとれるくらいに売れてくれれば良いけれど、もし、そうならなくても、物書きが本を出すという道楽のための必要経費と思っています。そういう意味では、いろいろ自由がきくので、最初の段階で、サイト上のテキストに関しては一切削除するつもりのないことや、その他文章表現のことなど、譲れないことを多く出版社に伝えてきました。

 実際、その協力出版という形態で、本を作った場合に、出版社と著者、それぞれがどれくらいリスクを負うのかとか、いろいろ調べたりしてみましたし、結構どぎついことを、出版社に直接意見したり、質問したりもしてみました。生来用心深い面はあって、想定されるいろんなことを確認してから始動したので、僕が本を出すための目的が本末転倒にならないように、かなりの注意を払っていました。

 ただ、例えば僕の出版が、彼の出版のように、出版社側の企画出版であれば、商業ベースにのせて、利益を出す方策を第一に考えなくてはいけないだろうし、おそらく、僕のメルマガや、日記、エッセイの該当部分の削除などが求められたかも知れないでしょう。僕の場合は、自分から売り込んでいって出版にこぎ着けましたが、仮に、僕に金銭的な負担がない出版の話がきたとして、条件に過去ログ削除を求められたら、どうするかと考えてみると、大いに悩むのです。僕にとって、本を出すということには、それだけの魅力があります。それは決して印税の魅力なんかではないのです。

 なんにせよ、無類の紙媒体好きの僕としては、彼のサイトの出版中止は残念ではありますが、著者の納得のいかない出版であるならば、こういう形で終結したのは、良かったのかも知れません。サイトはいつも通り続くようですので、僕はまた、一読者としてサイトを訪れます。

 僕の方は、本日、出版社から最終校正紙が発送されたということです。平行して、カバーデザインを行っています。校正チェックして送り返し、カバーデザインの確認をすれば、僕の作業はほぼ終了。あとは印刷所へ入稿され、早ければ来月か再来月に刷り上がり、9月までにはなんとか書店流通です。最初の出版告知からすでに数年が経過しました。気長に待っていてください。