「72時間勤務」-0499-

 大学病院というところは、勤務時間分の給料すら支払わないくせに、ガタガタうるさいことばかりいうところです。不思議な話ですが、月に10回近く当直までしながら働いているのに、大学から支払われる一月あたりの賃金は、僕の場合、二回くらい外勤病院へ出かけて、日勤・当直することで得られる賃金を下回るのです。それは月あたりにもの凄い額の給料をもらっているということではなくて、純粋に、大学がほとんど金をくれないということに過ぎないのです。他にも、勤続扱いになって、ボーナスが発生してしまうのを避けるために、二年以上にわたって大学病院で働く人間も、一度退職し、無職の一日間を強制的に設定するなど、他の職種ではおそらく許されないようなことを平気でやってるんですよ。

 まあ、そんな話はおいておいて、主たる収入が大学以外の病院からあるとはいっても、主たる勤務先は大学であって、その仕事を放棄して外勤ばかりすることは不可能だし、大学の仕事がいくら忙しくて、金を払って休みを買いたいくらいの気持ちのときであっても、僕の所属する外科の場合は、慢性的に不足している関連病院の重要な人材として、何曜日は誰がどこへ行けという指令で動いているので、行かなくてはなりません。外勤、バイトというと、医者の金儲けの手段、たくさんバイトをしてたくさん金を稼ぐ、と思われがちですが、もうそれはデューティーとしてのバイトであって、言葉の響きだけ「副業」なんです。

 日本というのは、他の先進国に比して、決して人口に対する医者の数が少なくはないようなのですが、病院数が多いらしく、病院あたりの医者の数は少ないのです。週末というのは、関連病院が当直要員を強く欲しがる時でもありますが、また、例えば結婚式などのイベントが設定されたりもする日です。例えば、外科関係者の結婚式ともなれば、大学で働く面々はもちろん、関連病院の医者たちも、多くが招待されるわけで、その日の当直要員の確保は、めんどくさいことになるのです。

 今日は僕の大先輩の結婚式。そんなわけで、昨日は大学ICUの日勤、当直。明日もICUの日勤、当直という48時間+アルファの勤務の合間のこの土曜日も、なんとなく予想していたとおり、外勤当直がすべりこみ、めでたく72時間耐久レースが確定したのでした。頑張ってます。

 僕の所属する外科は4月人事を原則とするのですが、医師国試の発表の時期との兼ね合いなどもあり、6月人事の科が圧倒的に多く、この週末は、各科での歓送迎会なども繰り広げられるのですが、医療機関のイベント設定というのはとても難しく、例えば、僕が現在働く大学ICU(集中治療室)で昨日行われた送別会など、医者も看護師もけっこうな数が大学の内外で深夜業務、当直業務に従事しており、みんなそろっての集まりというのは不可能なのです。

 ICUも6月人事で、大量に人が入れ替わり、下っ端医師も、僕と、僕と同じ外科から4月に一緒にICU勤務となった一名を除いて総取っ替えとなり、総人数としては減少するらしいです。勤務体制をかえたりして、当直回数や拘束時間などを考慮してくれるとは言っていますが、実際どうなるかは不明です。まあ、病棟勤務では考えられない、「オンコール」ではない休みの時間がとれるということは、ICUにいるうちに最大限活用しようと思ってます。

 早速6月には、アンド・エンドレスという、高校時代に一緒に演劇をやっていた友人の所属する劇団の芝居を見に行ってこようと思ってます。もし予定があうならば、今まで行ける可能性を見出せなかったフジロックフェスティバルなどにも行ってみたいと思ってます。後輩がそのアマチュアバンドの出演枠を狙っていたり、冷静に考えると、今作成中の「お医者のタマゴクラブ」の本の中にも、直接的な表現ではないものの、そのヴォーカルとの交流を(僕だけが)振り返ることのできるテキストを含む、レミオロメンは、ロック・イン・ジャパン出演という出世ぶりだったり、なんだか、芸術の世界で生きている友人・知人が気になることが多いのです。

 なぜ人が、生産的ではない芸術というものに憧れるのかよく分からないけれど、僕が僕であることを確認するためには、どうやら医学だけではだめなようで、どこかで芸術世界に触れていたいという思いが強いのです。それは、時に先の彼らへの憧れのようなものとして感情にあらわれるのです。