偽医者、続き

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051209/mng_____tokuho__000.shtml
この、「ニセ医師 診療8年の不思議」という記事にいちいち突っ込みを入れてみます。

 「症状に合わない薬が処方されれば、薬剤師の私たちにもすぐに変だと分かるが、そんなことは一度もなかった。八年以上もニセ医者を続けられるなんて…」

 無資格の医療行為をしていたとして、警視庁に逮捕された山城英樹容疑者(33)が勤務していた東京都江戸川区の瑞江脳神経外科医院近くの薬局。女性薬剤師は驚きを隠しきれない。

 別に医学部時代に具体的な処方学ぶわけじゃないですしね。熱に対して解熱剤、痛みに対して鎮痛剤、感染症に対して抗生剤…具体的にどの薬を一日何回何錠っていうのは、ガイドラインがあるものはそれに従い、ないものは先輩の処方をまねたり、添付文章や、薬の本を調べて、用法用量を確認して処方します。急ぎじゃない症状に対しての処方を避け、必要な処方もなるべく最小量、副作用のないものを選んでおけば、トラブルになることは少ないでしょうね。原疾患が治るかどうかは別として。偽医者ともなれば、トラブルを避けるでしょうから、問題のないような処方をしていたのでしょう。低血圧の患者に降圧剤を処方すれば、薬剤師から突っ込みが入るかも知れませんが、逆に、高血圧の初診患者に降圧剤を処方しなくても、それにいちいち確認を入れてくる薬剤師はまずいません。患者さんの症状に対して、余計な処方や禁忌があればチェックされるというだけで、患者さんの全ての症状に不足なく薬が出ているかどうかまで調べているのであれば、それはもはや薬剤師ではなくて、医師そのものです。かえって、積極的に治療しようと考えて処方したときのほうが、薬剤師のチェックが多いと思います。八年間も薬剤師からの確認が一度も無いというのは、まともな医者ならかえって不自然という話はないでしょうか。僕もしょっちゅう薬剤師から確認の電話をもらいますが、それは、やむを得ずやや変則的な処方をするような場合や、定期処方を変更するような場合であって、別に危ない処方をしているから、ということではないですし。

 通院中の五十代女性は「慶応大学医学部卒などと言っていたようだが、どうして調べもせずに雇ったのか、そっちの方が不思議だ。自分が通院している病院でこんなことがあればいい気持ちはしない」と憤る。

 まあ、確かに雇用側に非はありますが、医者に限らず、一般企業すべてが、履歴書の学歴をいちいち大学に照会しているとは思えません。

 二〇〇一年六月から、アルバイトの外科医として週一回勤務していた大手電機メーカー診療所でも、応急処置が中心で、縫合や手術はしていなかったという。トラブルになるような手術や専門性が求められる診療をしなくて済む当直医や診療科目を選び巧みに“診療”をしていたようだ。

 これは以前少し触れた通りです。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20051208#p1
ただ、外科系当直で縫合しなかった、ってのは本当なんでしょうかね。さすがにそこまで逃げるのは難しそうですけれど。頭なら脳外に、骨折からめば整形外科に送ってしまい、それ以外の傷はサージカルテープか何かで逃げる、ってところでしょうか。

 とはいえ医学的知識は必要だ。山城容疑者は一九九七年から一年間、都立広尾病院で「見学生」をしていた。

 「問診、カウンセリングは見よう見まねでできるかもしれないが、素人が一年間見学しただけで、診断名を付けたり、処置したりできるとは思えない」と病院側は否定するが、この経験を生かした可能性はある。

 でも、生活習慣病や腹痛、胸痛、風邪、怪我といった頻度の多そうな病気は、患者さんの訴えの内容自体と、採血結果で異常値が出た数字と、怪我の性状と場所並べとけば、だいたい保険病名が付くし、保険病名にあわせて薬出せば、薬剤師からもレセプトでもチェックが入らないし、見よう見まねでなんとかなるんじゃないでしょうか。実際、僕らがそれらを身につけたのも、ほぼ見よう見まねですし。

 今回、勤務先の医療機関が同容疑者に対し、医師免許の原本の提出を求めたにもかかわらず、応じなかったことから発覚した。警視庁の調べでは、山城容疑者は容疑を認めているという。さらに八年前から約二十カ所の医療機関で働いていた疑いもある。だが、なぜこれまでニセ医師とばれなかったのか。

 山城容疑者は、医療機関に就職する際には、医師免許のコピーを提出していた。医師免許には各医師に割り当てられた「医籍番号」が記されているが、同容疑者は実在する女性医師の番号が記載されていた免許を利用し偽造していた。コピーだったため偽造が分からなかったようだ。

 僕もバイト先の病院など、コピーで手続きしていることが多いです。どこもかしこも原本をもとめられると、ちょっと厄介です。バカでかい賞状のようなものなので、持ち歩くのも嫌ですし、紛失するのも厄介ですし。ただ、これは不備と言われればどうしようもないですね。僕の場合は、フリーで働いたことは一度もなく、全て医局へ来る依頼で出ていく強制バイトなので、基本的には医局が身分照会の場になっていますので、ごまかしはおきにくいですけれど。少し前まで、冗談で、「今日は疲れて当直いきたくないから、かわりに行ってくれない? 免許貸すから」なんて、学生とか、他業種の友人と笑っていたことがありましたが、これ、僕がほとんど行かないような病院だったらおそらくバレませんね。比較的ヒマな病院で「やばい患者はどこかに送って。指示求められて困ったら電話して」当直代行したら、ほぼバレません、多分。もうこんな冗談も言えませんね。

 八年間も、医師を演じてきたことに「そりゃ、できますよ」と医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は言い切る。

 「昔、軍隊の衛生兵は医者よりうまかった。問診して話をするだけなら、ニセ医者でもばれない。ニセ医者は人柄が良くて、口がうまく、技術がいいのが基本。そうじゃないと、すぐばれるから。普通の医者は面倒くさいから、そこまで親切ではない」

 医事評論家の水野肇氏も「ある程度の知識があれば、できてしまう分野はある。患者の七割は『風邪ひき、腹痛、二日酔い、切り傷』といわれていて、これらはそのうち自然に治るからニセ医者でもばれないことがある」と話す。

 大筋では、僕が前に書いた通りです。「勝手に治る」「後ろめたいから親切」

 水野氏は「医師免許に顔写真を付けるようにした方がいい。写真も五年ごとに更新するなど、本人だと確認できる仕組みに変えることが必要だ」と提言する。

 いっそのこと、運転免許と一緒にしてください。種別に「医師」。

 さらに水野氏は医療現場にこう苦言を呈する。

 「自分が新聞記者時代にニセ医者を取材した時も、患者はみんな、あんな親切な人はいないと言っていた。偉そうなニセ医者はいない。かつて医師出身だった三木行治岡山県知事は『もし医者が誰でもできる仕事になったら、今やっている医者はみんなすぐにつぶれる』と言った。医師には、なぜニセ医者が八年もばれなかったのか考えてもらいたい」

 もちろん、態度などの部分で、僕らが考えを改めなくてはならない点は多いと思います。ただ、以前も述べたように、偽医者は、ただ単に「患者さんに都合の良い医者」として優しいということもあると思います。欲しいといった薬を全部出したり、望むままに検査や点滴をするってのは決して正しい医療ではないと思うのです。そして、現場の医者からみていると、昨今の医療バッシング報道では、本来僕らが改めなくてはいけないことと、単なる患者さんのワガママや言いがかりのような要求を混同しているように感じるのです。