今しかできないかも知れないこと

 日本を脱出して最初に働いた中東某国は、全土に退避勧告が出ているような状況であり、基本的に職場と宿舎の往復だけしかできませんでした。魅力的な場所がすぐそこにあるのに、結局一度も行けずに異動(というか退避)となり、今でも大きな心残りです。次に働くことになったアジア某国は、種々の問題をはらんではいたものの、その前の国に比べれば安全で、おおむね好きな時に好きな場所に行けました。毎日の出勤途中に窓から眺めていた有名な仏教施設、いつでも行けると思っていたら、結局初めて訪れたのは着任して半年ほどたってからでした。職場の先輩に、「いつでも行けると思うとなかなか行かないものですね」なんて話していたのですが、「いつでも行けるという保証はないから、本当に行きたいと思うなら、なるべく早く行っておいたほうがいい」と言われていて、その言葉を今になってしみじみと噛み締めているのです。世界的にこんなにも移動とか人と会うことが制限されるという状況を、ほとんど想像していなかったんですよね。駅とか空港で見知らぬ土地への行き先表示をみては、行こうと思えばどこへでも行ける、なんて思って、実際お金と時間さえあれば不自由を感じずにどこへでも行けたのに、今この状況において、やはり国境の壁は高く、憧れの地は遠いのでした。