2002/2/23(土)「執刀医ザウエル」

 9時から5時の勤務なんかで手術して術後診ながら、別の患者さんの相手もしたりなんかできるわけなく、大学のとてつもなく安い各科一律の給料で病院内をかけずりまわるような生活に耐えていられるのも、外科医としてメスを持つことを許される瞬間があるからだと思うのです。

 もちろんオーベン(指導医)が前立ちについた状態で、実はヘルニアとか痔瘻とか執刀させてもらっていたのですが、手術予定のボードに僕の名前が初めて書かれたのは、もう大学勤務も残りわずかとなった2月のことです。身震いしてしまうようなその晴れ舞台、症例は直腸癌で、低位前方切除術という手術を、なんとか最後まで執刀医の立ち位置に立ち続けることを許されたのでした。良好な経過をたどったその患者さんは、先日笑顔で退院していったのでした。

 手術が多ければ仕事は大変だし、受け持ち患者が増えれば回しきれなくなるのです。それでいて、しかし、日頃の仕事のきつさにため息をつく僕らが、大学の外の修行の場として希望するのは、ヒマで高額な給料が出るような病院ではなくて、手術症例の多い忙しい病院なのでした。自分が進むべき道に対して、その表現系の違いはあれど、皆一様に熱いもの、まっすぐなもの、真面目なものを持っていることを再確認する瞬間です。

 ポリクリ(臨床実習)で回ってくる学生たちに接しながら、学生時代の特権とでもいうべき適当さ、例えば授業をさぼったり、他人のレポートを写したりというようなことは、僕らにも経験があることだし、個人の好きにすればいいと思うけれども、臨床に対して、根底の真面目さを持っていない奴らは心底嫌ってしまう面を持つのも、僕らの生き方だと強く思うのです。

 僕は3月一杯で大学を去り、もう少し北の方にうつって勤務します。また、修行の成果を報告したいと思います。