PET検診、がんの85%見落とし

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060303-00000005-yom-soci
 PET単独でのすべての癌の早期発見は難しいことは当初から言われていたことだと思うので、個人的にはそんなに驚くべきことではありません。しかし、一部の医療機関の宣伝の仕方や、マスコミでの取り扱われ方は歪んでいたと思いますし、「PET検診ツアー」のような変な方向へ向かっていたのも確かです。
 僕の専門領域である消化器癌、特に消化管癌において、原発巣の評価に関しては、内視鏡に優るものはありません。ほんの数ミリのくぼみから癌を検出するのは、PETでもCTでも不可能だと思います。
 原発癌が見つかった状態で、CTスキャンなどとPET検査を組み合わせて行うことは、転移の評価に非常に効果的だと思います。CT画像では、ほとんど何もない場所に出現するリンパ節腫大に関しては比較的読影が容易ですが、場所によっては、そこにうつっているものがリンパ節転移かどうかうまく判断できないこともあります。所詮グレースケール画像ですから。そこに糖の取り込みをみるという全く違う画像を重ね合わせることで、評価がしやすくなっているのは確かです。最近では、PETとCTを一度に撮影でき、画像の重ね合わせが可能な、PET-CTも稼働しています。CT上の白い固まりの上に、糖の取り込みが亢進している場所は色を付けて示されるわけで、この利点は相当なものです。
 PETの利点は大きく二つだと思います。
 一つには、内視鏡など、若干の苦痛を伴う検査を受けずとも、癌が見つかるかも知れないということ。精度に関しては落ちることは、そこに関わる者としてはデータを蓄積するまでもなく当然のことと思っていましたし、患者さんにはそう説明して、癌の発見や術後再発の確認という意味では、PETを受けて頂くか否かに関わらず、内視鏡をすすめてきました。ここで、「ほとんど苦痛なく体の広い範囲の検査ができる」という部分だけ抜き出され、有効性について過大にとらえられていたということが問題なのです。
 もう一つは、冒頭で述べたような、現在広く用いられている画像診断に「加える」ことで、診断精度を格段にあげることができるという点です。僕が研修医の頃は、まだこれが保険診療になる以前でしたので、患者さんに説明の上、自己負担をお願いしていたので、その内容や有効性の説明は何度となく行ってきました。
 ただ、テレビで適当な知識を流されると、「PETやれば全部わかるんだったら、カメラなんて嫌だよ。先生、もっと勉強してよ」なんて言われてしまうんですよね。今回の報道以降は、「PETなんてやっても癌が見つからないって言っていたから、受けたくないよ」と言われるんでしょうね。もともと僕はPETだけで全てがみつかるという説明はしてきませんでしたが。
FDG-PETがん検診ガイドライン(2004)
日本核医学会・臨床PET 推進会議
http://www.jsnm.org/report/FDG-PET_gaidorain2004_part3.pdf

効果に関する誇張広告は慎むべきである。たとえば、「数ミリのがんが発見されることがある」というような宣伝をする場合は、大きさだけがPET での描出を決める因子でないことを述べて、「数センチのがんでも発見されないことがある」ということを付記するのが望ましい。

内視鏡による消化管の検査
内視鏡検査は消化管の癌の検査には必須であるが、FDG-PET 癌検診ガイドラインにおいてはその侵襲性を考慮し、含めることが望ましいという位置づけとする。ただ、癌死亡数のうち胃癌が16%、大腸癌が12%であり、この二つでの約3 割を占めていること、FDG-PET で早期胃癌、早期大腸癌が見逃されている可能性があることを知っておきたい。内視鏡検査を行わない施設では、内視鏡検査の必要性を受診者に説明しておく必要がある。

発見される代表的な腫瘍とその対策
全体的には、大きさの小さいもの、中枢神経系、尿路系に近接するもの、腫瘍組織内の細胞密度の低いもの、分化度の高いもの、glucose-6 phosphatase活性の高いものなどはFDG-PET検査偽陰性になりやすい傾向が認められる。具体的には、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱癌、胃硬癌(スキルス)、気管支肺胞型腺癌(高分化型肺腺癌)、高分化型肝細胞癌などがFDGの集積が乏しい。

消化管癌
消化管癌全体に対して言えることであるが、我が国には、消化管造影検査、消化管内視鏡検査に関して優れた技術があり、早期癌の発見に関しては、FDG-PET 検査は無力であることを認識すべきである。FDG-PET 検査は、侵襲が軽いため、高齢者などで有用性がある可能性はある。