平成十八年

 今年一年をふりかえってみて、最も衝撃的な出来事は、やはり「大野病院事件」でした。常々感じていた悪い予感が現実に実を結んでしまったという思い。いまだに心の奥底に深い影を落としています。
 医者になるという時点で、激務はある程度覚悟していたし、患者さんを優先するために、自分を犠牲にする必要についても、もちろん考えてはいました。しかし、少なくとも、善意に基づいて一生懸命やっていることに対して、訴訟や逮捕という答えを貰うことは考えていなかったのです。そうした試練を受け入れるまでには、僕の心は強くなかったし、慈愛に満ちてもいなかったのです。
 今現在、常勤医としての仕事はしておらず、大学院生としての身分の傍ら、大学での無給診療や、バイト医としての生活を送っています。大学院に入った後、外科医として手術に関わることは稀でした。そうして僕の設定したはずの「本業」から少し距離をおいているからこそなお、自分が何のために働くのか、何を目指して働くのかということに対して、余計に悩むことも多いのです。
 僕個人としてのこの一年は、目に見えて何かが大きくかわったということもなく、医者になってから初めて、所属がかわらず引っ越しもしない年でした。ただ、心の中での動揺はかなり大きいものでした。このモヤモヤを、どういう方向で整理しようかといまだ迷っているところです。
 今年は残りわずかです。また来年、ゆっくり考えてみます。
 それでは皆様、よいお年を。