エボラ出血熱

 WHOが8/8、エボラ出血熱の拡大(ギニアリベリアシエラレオネから拡大中)に関し「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。CDC(アメリカ疾患対策センター)やWHOなどがこれまでにまとめている情報や、現在の仕事絡みで収集した情報を整理し、みなさんに提供しておきます。

 エボラ出血熱は、感染してしまうと致死率も高く、いまだ治療法が確立していないということもあり、恐ろしい病気である反面、ウィルスとしては本来は弱いものであり、きちんとした感染防御策がとれれば、こんなにも拡大するはずのない疾患です。実際、エボラウィルスは1976年に発見されてから、今回の爆発的な感染拡大以前の30年以上の間にエボラ出血熱の症例は2000人以下でしかありませんでした。

 2005年に、Nature誌にて、ウマヅラコウモリ、フランケオナシケンショウコウモリ、コクビワフルーツコウモリ等が、エボラウイルスの自然宿主とされ、現地の食用コウモリからの感染について報告されています。その他の野生動物も宿主の可能性があり、ネズミなどの野生肉を食べる習慣のある地域で、注意が促されています。
 
 発熱している患者の血液、分泌物、排泄物や唾液などの飛沫が感染源となります。死亡した患者からも感染します。これらに接触した場合の感染力は強いため、治療に従事する医療関係者が感染、死亡する事例が多々ありましたが、空気感染をしないため、感染者の体液や血液に触れなければ感染しませんし、そもそもエボラウィルスは乾燥や熱に弱く、60℃30分で死にます。患者の衣類も洗濯機で洗剤や漂白剤を入れて洗えばそれでもう問題ありません。熱がない限り、潜伏期間であっても他人には感染させません(例外は精液、後述します)。

 発熱とともにウイルス排出が始まり、解熱とともに排出がなくなるため、基本的に発熱のない患者との公共交通機関内での接触等では感染しません。ただし例外は精液で、2~3ヶ月は精液中にウイルスを排出し、性行為が感染源となります。発熱に遅れて抗体産生が始まり、抗体値が上がった人は回復します。

 今回の感染拡大の理由に関しては諸説ありますが、
 1)感染源の森林地帯は首都からコントロールが難しい地域である(原始宗教に依存した社会のためイスラム教指導者や政治家の説得も無効。治療に来た国境なき医師団赤十字を人体実験に来た白人と思って攻撃する。国境をまたいで市場や家族の家があるので人の移動を止めるのは無理)。
 2)遺体は故郷で埋葬する文化であるため、どんどん遺体が移動してしまう。遺体を洗うので葬儀で感染が拡大する。
 3)感染がばれると村八分になる(家を焼かれたりもする)ので患者を隠す。あるいは、隔離のため自宅から家族が連れて行かれることを恐れ、患者を隠す。
 4)人材も資金も不足していて、思うように活動が進まない。
といった要因が言われています。

 症状としては、7日間程度の潜伏期の後、
 1)突然の発症(熱、頭痛、倦怠感、咽頭痛)が特徴で、これはマラリアや他の熱帯病にそっくりであり、この時点で診断するのは難しい。
 2)その後吐気、嘔吐、下痢が始まる。半数弱は出血傾向が出る。
 3)7~10日で20~90%程度が死亡。 

 今まで公共交通機関での感染例の報告はありません。流行地(ギニア)においてタクシーで患者が病院に行った例がありますが、他者への感染は認めませんでした。航空機の乗客がエボラウィルス感染者と判明した場合、その乗客と同じ列、および前後の列の乗客を21日間(潜伏期間)フォローアップの必要がありますが、自宅にいるだけで隔離不要とされています。機内は後で消毒を行います。

 授乳で感染した例が報告されています。乳汁中にウイルスは存在し、母親はかなり重症でも子供に授乳を続ける傾向にあるので、これは注意が必要。疑わしい症状(発熱)のある際は、授乳は控えるべきと言えます。

 エボラ出血熱の治療に従事しており、ウィルスに感染したため本国へ移送された米国人2人に対して、治験の終了していない治療薬「ZMapp」が投与され、効果を認めたことから、この薬のエボラ出血熱患者への投与容認をという声明が、国際的に著名なウィルス学者から出されています。

 インフルエンザ治療薬として日本で開発され、2014年3月に製造販売された薬にアビガン(ファビピラビル)があります。富山化学(富士フイルムが買収)が開発した薬品です。これは、従来の抗ウイルス薬と異なり、RNAポリメラーゼ阻害薬であるため、インフルエンザ以外の広範囲なウイルスに応用できることが期待されています。RNAポリメラーゼ阻害薬は、いくつかの国で研究開発が進んでいますが、現時点で人間に対する臨床研究が済んでいる(インフルエンザに対してですが)のがファビピラビルです。今後の治療に早急に応用されることが期待されています。