「マスコミとタミフル」-0484-

 何でもかんでも病院にやって来るというのが、そもそもの間違いなのです。なんて言うと、すぐマスコミにかみつかれるんだと思います。しかし、そのマスコミの無責任なこと。ここのところのインフルエンザ騒動も、元はと言えばマスコミが悪いと思わざるを得ません。

 ちょっと前までは、タミフルなんていう抗インフルエンザ剤はなかったけれども、大半のインフルエンザは安静で寛解するのです。もちろん、一部の患者に対しては、早期の治療、タミフルの使用が必要なのだけれども、大騒ぎしすぎて、安易な処方が横行し、なんでもかんでも薬に頼った結果、本当に必要な人のところへ薬が行かなければ本末転倒です。

 最近は、学校なんかで怪我すると、かならず病院へやって来ます。「体育で転んで切ったんです。今は血も止まっているのですけれど、念のため診てください」なんて言われれば、もちろん嫌とは言わないけれど、その大半は、放っておけば治るありふれた怪我です。もちろん、その受診の全てを否定はしないし、「素人が病院にいくべきかどうか判断できるか」とか言われれば、そうそう反論できないのです。けれど、次の瞬間にはその素人が、勝手な診断をして「俺はインフルエンザだからタミフルを出せ」と言うわけです。

 学校なんかでは、なんかあれば教師が責任を問われるわけで、一昔前なら確実に「唾でもつけとけ」と言われただろう怪我でも、やたらと病院に連れてきて、「医者に診せた」という既成事実をつくり、いざというときの責任転嫁をはかるわけです。辛い人を良くしようという気持ちよりも、まず、その「責任」云々が先に立てば、医者だって多少の保身はしておかなくてはならないので、ほぼ問題ないと思われる怪我とかでも「人間ですから、100%大丈夫とは言えませんので、何かあればすぐ病院へ連絡してください」なんて言っておかなくてはならなかったりするのです。

 肝不全の人が、体に良いときいたワインをがぶ飲みしたり、塩の健康効果を知った高血圧患者が、みそ汁に塩入れて飲んでいたり、糖尿病患者が、体を良くするココアを愛飲したり、無責任な情報を垂れ流しする一方、医療バッシングするマスコミ。今度は、インフルエンザ症状に対してどうしたら良いかをやたらと煽るものだから、本来必ずしも要しない薬を処方される元気な人が増える一方、今後いざというときに薬の在庫はないという現状を作り出すのです。

 都合のいいときは「素人だから分からない」といい、夜中だろうがなんだろうが、医療を受ける権利ばっかり振りかざすのは筋が通らないことです。はっきり言って、そんな患者の我が儘につきあっているほど医者は暇じゃないです。もっとも、そういう軽傷患者でも、気軽に駆け込める救急外来があってこそ、過剰に我慢して手遅れになる患者を減らせるわけですが、病院はレストランの行列じゃないので、重傷者を優先して診療にあたる我々に、比較的元気な人々が「いつまで待たせるんだ」とか怒鳴り込んでくるのは勘弁してください。僕らは、患者がいる限り、食事もとれずに診療にあたっているんです。