新型インフルエンザ

 感染症に対する最も重要な対策は、その感染を広げないことであるから、感染症の自覚がある人は、そもそも人が集まるところへ出て行ってはいけません。特に密閉された空間にたくさんの人間が集まるという状況は、感染症を広げるのに最も適した条件と言えます。
 ちょっと知的な人(あるいは自分を知的だと信じている人)や、あるいは知的を気取ったバカな芸能人が、「今回の新型インフルエンザは弱毒らしいからあまり心配していない」とか、マスク品切れや国や病院の対応について「騒ぎすぎ」だとか言っているのは非常にナンセンスなことです。毒性の強さと感染力は比例するとは限りませんし、弱毒性のウィルスがしばしば命を奪います。
 WHOは現在、警戒レベルを「フェーズ5」としています。これは「より大きな(一つあるいは複数の)集団(クラスター)が見られるが、ヒト―ヒト感染は依然限定的で、ウイルスはヒトへの適合を高めているが、まだ完全に感染伝播力を獲得していない(著しいパンデミックリスクを有していない)と考えられる」「可能であるならパンデミックを回避し、パンデミック対応策を実施する時間を稼ぐため、新型ウイルスの封じ込めを行う。あるいは、拡散を遅らせるための努力を最大限行う」という状況であり、ヒト−ヒト感染が世界のあちこちで報告され始めるに至り、パンデミック(世界的大流行)期を意味する「フェーズ6」への引き上げも検討しているとされます。
 こうした状態において、現在目に見える形では国内発症が無いとされています。しかし、この期に及んで日本だけ関係ないということは考えにくいのです。蒸し風呂のような防護服に身を包み、「早くしろよ」の怒号に耐えながら水際対策として献身的に働く検疫官というのは、もちろん一定の役割を果たすでしょうが、そこをすり抜けて、既にウィルスが国内に入っている可能性は少なくないのです。もちろん、海外渡航歴や接触歴、動物暴露歴といった情報は重要です。しかし、フェーズ5に至って、それはあくまで参考情報でしかなく、絶対的な物ではありません。チェックをすり抜けた感染者からのヒト―ヒト感染による二次感染者がいてもおかしくはないからです。
 そもそも、新型インフルエンザではない発熱であれば、必ずしも救急治療を受ける必要はありません。風邪を引いたといって夜中に病院に駆け込むのは日本くらいのものです。この時期、単に海外渡航歴その他の情報から、あまつさえ自己申告だけの情報から、新型インフルエンザを否定することはできません。フェーズ5とはそういうことです。発熱患者が、公共交通機関という密閉された空間を使うとか、体制のない一般病院という、感染防御力の低下した患者が集まる場所に出向くというのは、加害行為とも言えます。適切なスクリーニングが行われて然るべきです。また、この体制のため、肝心のインフルエンザ診断キットや抗インフルエンザウィルス薬の在庫が危うくなっていて、そもそも感染症指定病院以外では季節性のインフルエンザ自体が診られなくなっているところもあるようです。
 マスコミはこうした社会的に繊細で重要な問題に対して、裏付けをとったとは言い難い方法で「診療拒否」と医者叩きを繰り返しています。

新型インフルエンザ:感染国に渡航歴ないのに…発熱患者の診察拒否 東京で63件

http://mainichi.jp/select/science/news/20090505ddm001040003000c.html

 ◇「成田勤務」「友人に外国人」
 新型インフルエンザへの警戒が強まる中、東京都内の病院で、発熱などの症状がある患者が診察を拒否される例が相次いでいることが分かった。都によると、2日朝〜4日朝だけで計63件に上る。新型への感染を恐れたためとみられるが、感染者が出た国への渡航歴などがない患者ばかりで、診察拒否は医師法違反の可能性がある。大学病院が拒否したケースもあり、過剰反応する医療機関の姿勢が問われそうだ。

 患者から都に寄せられた相談・苦情によると、診察拒否のパターンは(1)患者が発熱しているというだけで診察しない(2)感染者が出ていない国から帰国して発熱したのに診察しない(3)自治体の発熱相談センターに「新型インフルエンザではないから一般病院へ」と言われたのに診察しない−−の三つという。

 拒否の理由について都は「万一、新型インフルエンザだった場合を恐れているのでは」と推測する。

 拒否されたため、都が区などと調整して診療できる病院を紹介した例も複数あった。「保健所の診断結果を持参して」と患者に求めた病院や、成田空港に勤務しているとの理由で、拒否した例もあった。友人に外国人がいるというだけで拒否された患者もいたという。

 国や自治体は、熱があって、最近メキシコや米国など感染が広がっている国への渡航歴があるといった、新型インフルエンザが疑われる患者には、まず自治体の発熱相談センターに連絡するよう求めている。一般の病院を受診して感染を拡大させることを防ぐためだ。だが、単に熱があるだけなどの患者は、その対象ではない。

 都感染症対策課の大井洋課長は「診察を拒否する病院が増えれば、『症状を正直に申告しないほうがいい』といった風潮が広まるおそれがある」と懸念している。【江畑佳明】

診療拒否と騒ぐ、毎日新聞―内科開業医のお勉強日記

http://intmed.exblog.jp/8245932/

そもそも、保健所が「新型インフルエンザではないから一般病院へ」と即答することなどあり得るだろうか?


“発熱に対する病院側への問い合わせに、発熱センターにまずは問い合わせしてください”と答えた場合までカウントしているのではないか?

毎日新聞は、この行政側への対して反面調査しているのか?



当地域では、インフルエンザBの小集団発生がある。この場合でも発熱者側から見れば、“そういえば周りに咳をしてたり、気分悪そうな人がいた”と言う場合がある。

大げさな対応と思っても、最悪の場合を考え、発熱センターへと、誘導する医療機関・医者がいても不思議でない。

なぜ、毎日新聞は、勝手に“診療拒否と騒ぎ立てるのか?”

この新聞社は・・・ほんとに・・・

毎日新聞の提示している診察拒否のパターン
(1)患者が発熱しているというだけで診察しない
(2)感染者が出ていない国から帰国して発熱したのに診察しない
(3)自治体の発熱相談センターに「新型インフルエンザではないから一般病院へ」言われたのに診察しない

(1)、(2)、(3)の実態に関してほんとに調べているのか?

(3)などは、「発熱相談センター」の側がほんとに「新型インフルエンザではない」と断定できるのか?これがホントなら、医師が相談にのってるなら“無診察診断”、医師以外なら医師法違反ではないだろうか?

 自治体にもよるけれども、発熱外来や相談センターの体制を整えないまま連休に突入してしまったということがそもそもの大きな問題であり、わざわざ感染のリスクの高い人混みに暴露したような人間の「発熱」の訴えを吸収する場所が無くなってしまったのです。そもそも、休日は病院もお休みです。診療拒否は「医師法違反の疑い」とありますが、そもそもインフルエンザに限らず、救急外来の体制がとれていない病院も少なくないでしょうし、輪番当番医の紹介や、今回のように適切な相談施設への誘導といった場合は応召義務は果たされるわけです。どう転んでも医師法違反とは言えないのではないかと思います。
 しかし行政はマスコミに呼応するような対応で、「診療拒否の実態を調査し、指導する」などと言っているようです。現場で踏ん張っている人間の心をこれ以上なく折る行為だと思います。本来ならば、発熱外来にせよ、相談センターにせよ、十分な準備をして然るべきなのに、その不備を現場のせいにしようとしているようにしか思えません。
 僕はこの4月から久々の常勤医となりましたが、先月までは非常勤のみで生活していましたので、医局に言われてあちこちの病院へバイトにでかけていました。世間の連休が憂鬱だというのは何度と無く書いてきたことですが、今年は、こうした「発熱患者」への対応を自治体がきちんと決めないまま、そもそもの救急体制がなっていないような地域で、小さな個人病院へバイトの旅に出ている後輩たちは、さぞ大変な思いをしていることだろうと思います。

豚インフルについて、研修医の皆さんへ―楽園はこちら側

http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-6163.html
 神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生からのメッセージ。研修医だけでなく、全ての医療従事者が読んでおくと良いと思います。

まず、毎日の診療を大切にしてください。呼吸器症状の有無を確認し、ないときに安易に「上気道炎」と診断せず、旅行歴、シックコンタクト、動物暴露歴など問診を充分に聴取してください。患者さんが言わない、ということはその事実がない、という意味ではありません。

自分の身を護ってください。

普段の診療をちゃんとやっているのなら、豚インフルのリスクに不安を感じるのはいいとしても、パニックになる必要はありません。

今分かっていることでベストを尽くしてください。分からないことはたくさんあります。なぜメキシコ?なぜメキシコでは死亡率が高いの?これからパンデミックになるの?分かりません。今、世界のどの専門家に訊いても分かりません。時間と気分に余裕のあるときにはこのような疑問に思考をめぐらせるのも楽しい知的遊戯ですが、現場でどがちゃかしているときは、時間の無駄以外の何者でもありません。知者と愚者を分けるのは、知識の多寡ではなく、自分が知らないこと、現時点ではわかり得ないこととそうでないものを峻別できるか否かにかかっています。

情報は一所懸命収集してください。でも、情報には「中腰」で対峙しましょう。

 その他、「現場の声」と思われるものなどを含めて。

「マスコミたらい回し」とは?(その140) ―天漢日乗

http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2009/05/140-55c6.html
 追加。

イベントドリブンは勘弁してほしい - レジデント初期研修用資料

http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/345

共有資料 ブタインフルエンザの一般向け説明書―感染症診療の原則

http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/b60eb34d09d10229a171a400faf59300

調子が悪い時には、感染を拡げるのを防ぐために家から出ないようにして、人との接触をなるべく避けるようにしましょう。

 日本ではこの考え方が欠落しているように思えます。