内視鏡の誤挿入

 5年前に大腸内視鏡を腟内に挿入したとして、強制わいせつの疑いで数日前に某医師が逮捕され、容疑段階で顔写真、自宅、実名全てが報道されました。情報がほとんど無いので、僕にはこの医師がじっさいにわいせつを行ったのか否かよくわかりません。ただ、一般の方々は、故意以外に挿入部位を間違うことなどありえないという反応をしているようですが、実のところ、肥満などで肛門がわかりにくかったり、緊張して肛門に力が入るなどして、内視鏡が滑って腟内へというケースは、時々耳にすることであって、実際のケースを何件か知っています。
 僕らにとって、患者さんが普通は人にみせない部分を診察するという機会は非常に多いので、変な誤解を抱かれないために、女性の診察時は、基本的に女性看護師に立ち会ってもらっています。看護師の数もじゅうぶんとは言えず、なかなかついてくれる看護師さんが見つからないことも多いので、時々面倒で一人で検査にのぞむこともありましたが、こうした報道を目にすると、自分の身を守ることの大切さを改めて感じます。患者さんの申告のみで、身に覚えのないわいせつ容疑で逮捕されないとも限りませんし。痴漢冤罪をみていても、「被害者」の証言だけで裁判所が罪を認定しているような風潮がありますし、そもそも、「容疑」の時点で実名報道されてしまえば、仮に無罪を勝ち取っても、失うものがあまりにも大きすぎます。推定無罪を無視したマスコミの対応には常々強い疑問を感じています。今回の医師逮捕の件についても、少なくとも本人が否認していて、明らかにわいせつ行為だったという証拠や裁判所の判断が明らかにならない時点で、あそこまでプライバシーをさらけ出すというのはやりすぎだと思っています。
 追記。こんな記事をみつけましたが、この人は本当に医師? 医師としての責任をもった発言だとすればなんともお粗末ですね。
http://www.zakzak.co.jp/top/200905/t2009050806_all.html (魚拓)

元国立医療センター医師の黒木誠氏は「間違える可能性ゼロとはいえないが、過去に聞いたことがない。

 聞いたことがないのは、あなたが内視鏡に関わっておらず、アンテナが低かっただけのように思いますが、その薄い根拠を前提に、さも専門家の意見のように発言するのはやめて欲しいと思います。
 恥を忍んで書いておきますと、僕は過去に一度だけ腟内に誤挿入したことがあります。患者さんが何も言わなかったのと、たまたまその患者さんの腟内が直腸壁に似ていた(ように思えた)のと、さらには周囲にいた臨床工学技師・女性看護師も全く気づかなかったので、しばらく腟内をつついてしまい、しかし奥に進めないのに至ってようやく誤挿入に気付いたということがありました。未熟といわれてしまえば申し開きのしようもありませんが。もちろん、挿入時には注意していたつもりなんですけれども、注意していたからこそ、直腸内にファイバーがあると信じて疑えなかったということもあります。もちろん患者さんにはすぐに謝罪しましたけれども、これも告訴されれば逮捕されてしまうかも知れないと思うと、恐怖ではあります。