実名報道・追記

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060908#p1
 ↑このエントリに関して、マスコミ各社の見解を引用しておきます。

マスコミ各社の見解

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060908-00000095-mai-soci

 <毎日新聞の見解>
 毎日新聞は、少年法の理念を尊重し、事件発生以来、容疑者の少年を匿名で報じてきたところ、少年の死亡が確認されました。新たに重大な罪を犯すなど社会的利益を損なう危険性もなく、匿名報道を続けています。
 少年事件の報道に当たって、毎日新聞は、個別の事件ごとに多角的に取材し、法の理念を踏まえ総合的に検討して紙面化しています。従来から報道指針として、少年事件は匿名を原則としていますが、新たな犯罪が予測されるときや社会的利益の擁護が強く優先するときなどは実名で報道することもある、と定めています。
 さらに、外部の有識者が新聞のあり方を提言する第三者機関「開かれた新聞」委員会などで今回のケースを引き続き検証し、その結果を紙面で報告します。
    <報道各社の見解要旨>
実名報道
読売新聞 容疑者が死亡し、少年の更生を図る見地で氏名などの掲載を禁じている少年法の規定の対象外になったと判断。事件の凶悪さや19歳という年齢も考慮した。
日本テレビ 男子学生が遺体で発見された段階で、少年の更生を前提に規定された61条の対象外になったと判断。事件の重大性、社会性、年齢などを総合的に検討した。
テレビ朝日 指名手配されていた少年の死亡が確認されたことで、少年法が尊重する更生、保護の機会が失われたと判断。事件の重大性もかんがみた。
▽匿名報道
朝日新聞 実名で報じるケースは(1)死刑が確定して、本人の更生・社会復帰への配慮が消える場合(2)逃亡中で再犯の恐れが極めて高く、一般市民への被害が想定される場合。今回の事件はいずれにも当てはまらない。
日経新聞 7日の時点では少年法の原則を覆す明確な理由はない。
産経新聞 逃走中で凶悪な累犯が明白に予想されたり、犯人逮捕に協力する場合など「少年保護より社会利益の擁護が強く優先する特殊な場合」は実名報道もあり得る。今回のケースは「特殊な場合」とは判断しがたい。
東京新聞 共同通信社の配信記事で、同社の判断を尊重した。拠点のない地域の事件であり、自社取材がなされていない。男子学生の死亡によって、少年法が保護法益とする「更生の可能性」は失われたとの判断から、実名報道に切り替えることも考えられたケースだったという意見もあり、社内でさらに検討を重ねる。
山口新聞 少年犯罪の場合、匿名を原則としている。例外としては無差別・凶悪かつ再犯の可能性がある場合のみと考える。
共同通信 少年の死亡で少年法の法的な保護対象からは外れたが、現時点で実名に切り替える積極的な理由を欠く。顔写真は入手していたが配信はしていない。
時事通信 少年の自殺報道では、家族の名誉を傷つけるケースでは匿名で扱ってきた。容疑者死亡で少年法の規定の対象外になったともいえるが、今回は容疑者が今後裁判で釈明する機会も失われており、総合的に判断した。
NHK 逃走中でも、新たな事件が引き起こされる恐れは低いなどの事情を総合的に判断した。
TBS 容疑者が死亡したといっても実名に切り替える必然性が見当たらない。
フジテレビ 総合的に判断した。
テレビ東京 19歳という年齢を考慮すると、実名報道に切り替えるかどうか議論のあるところだった。しかし、本人の死亡で事件の真相解明は困難な状況になっており、罪が確定できない段階では少年法の趣旨を尊重する結論になった。

 また、今回のマスコミ批判を「堀病院」の看護師内診問題に関連して、以下のようなトラックバックを頂きました。
http://d.hatena.ne.jp/chirin2/20060908#p3

昨今の助産師問題などで「違反」だとされたことを「警察の・・」と批判することと比べて、本質的に違うと言い切れないのではないかと思う。

 この件に関しては、実は最初のエントリで少し書き始めて、長くなってしまいそうなので、今回は、とりあえずあのエントリにとどめました。実は、僕、「大野病院事件」の時のように、堀病院の件に関しては、ほとんどコメントしていませんでした。その理由は、トラックバック元で指摘されているような理由です。今回の件は、違法かどうかは微妙な問題として、しかし、監督省庁からは「禁止」が通達されていたことであるので、開き直って「誰でもやっていることだ」と言うのはやはり問題だと思ったのです。実際に、その通達があまりにも現状にそぐわないことであるとか、内診とは本質的に関係のない死亡事例を持ち出してきた点であるとか、医師会や医会を通して厚生労働省へ通達の見直しを求めていたという事実や、あれだけの大がかりな強制捜査に対する違和感については、ネット上で他の医師たちがさんざん書いていますので、なんとなくはわかっているつもりです。
 僕も医者ですから、その言わんとすべきところはよくわかりますが、それでもなお、悪法(もしくは悪い通達)であるにせよ、それを堂々と破って良いとは言えないと考えたため、積極的に擁護するという姿勢はとりませんでした。また、助産師の数が足りないとか、実際のお産の現場というのを恥ずかしながらほとんど知りませんので、コメントを差し控えていました。
 今回の件が本当に違法かといえば、違法ではないかもしれません。通達はあくまで通達に過ぎません。避けるように通達されながら、実際には行われ続け、最終的には、法の判断としても合法であるとされたものとして、看護師による静脈注射手技などもあげられるわけです。
 大野病院の事件は、医師が意図的に法や通達を無視するという行為がないにもかかわらず、結果責任として刑事罰に問われたということで、警察の介入に強く意義を唱えました。しかし、上記のような理由で、僕自身は、堀病院を強く擁護はできません。しかし、医療の現場では、内診に限らず、ボーダーラインのはっきりしない種々の手技とか、違法黙認状態の勤務体制(これは働く医師というよりは、雇用側の違法ですが)とか、明らかに通達や法に反してはいるけれど、だからといってどうすればいいんだ、という問題が山積みです。堀病院の件も、おそらくやむを得ない現状、全国の産科における現状なのだと思います。ですから、それをマスコミや警察側のスタンスで批判することもしません。
 このあたりの気持ちがうまくまとめられなかったので、堀病院の事件はスルーしていました。やはりまだうまく気持ちをまとめられませんが、一応エントリしておきます。