「緊急手術」-0479-

 腹痛って凄く怖い病気です。胃が痛くても肝臓が痛くても膵臓でも腎臓でも便秘でも下痢でも怪我でもお腹が痛くなって、場合によっては、胸痛の原因となりやすい、心疾患の主訴が「腹痛」だったりもします。所見の強さは必ずしも病気の深刻さを正確にあらわさないし、レントゲンにも限界があります。痛み止め使えばケロっとする人の腸管が、実はねじれてくっついて、大変なことになっているかも知れません。実際、痛み止めで様子をみてしまったことにより、腸が腐ってしまうような場合も良くあるのです。

 今日も緊急手術。開業医で痛み止めの注射をしてきて、わりと落ち着いてきていたので、手術をすることに対してはどうも消極的であったけれど、お腹をあけてみれば、索状物が腸管に巻き付いて狭窄をおこし、血行障害をおこしはじめているのです。首つりのようになって巻き付いたそれを切れば手術は終わるのですが、その重大さを、果たして患者さんや家族は分かってくれるのかということはいつも考えます。もしかしたら、あんまり痛くなかったのに言いくるめられて手術されて、手術の傷のほうが痛い、なんて思われてしまうかも知れないです。十分な説明とか、信頼関係っていうのは凄く重要になってくるところです。

 今日の症例、レントゲン写真単独ではあまり診断がつかず、CTやエコーといった方法を組み合わせて、かなり正確な術前診断を得たわけですが、医療経済の問題とか、医療施設の格差だとか、面倒なことはたくさんあります。患者さんがどの医療施設に駆け込んだかで、結果が変わってしまうのは多少はやむを得ないのですが、軽傷の人間も放っておけば重傷になってしまうのです。医療施設を一度受診した、というのは、実は放っておくよりもっとやっかいで、最初の医者に「大丈夫」と言われれば、その後痛みが続いても、「我慢すれば治る」という思いこみを抱かせてしまうものです。結果、我慢強いばっかりに、瀕死の状態でやって来る人などがいるわけですが、こういう哀しいことが少しでも減ってほしいと思います。

 最後に、お知らせです。「お医者のタマゴクラブ」というメルマガをずっと発行しているのですが、その中で、かつて冊子化計画を発表したことがありました。協力者を得て、非常にゆっくりと歩んでいたのですが、なかなか進まないまま、今まで来たのですが、うまくいくと、出版社から全国展開が叶うかも知れません。ちょっと前に原稿を送って、割と良い返事を頂けたので、今後話を煮詰めていきます。詳細はまたお伝えしますので、出版の際には、よろしくお願い致します。ポリクリ(臨床実習)時代の話が中心になると思います。ご意見などありましたら、いろいろ言ってやってください。