「焦り」-0478-

 本当はそんなことは無いのだけれど、時に自分の仕事がもの凄く単調なことのように思えてくるのです。考えたのか考えてないのか分からないような、同じ様な点滴の指示出して、上手いのか下手くそなのか紙一重の胃透視撮って、とりあえずコッヘル鉗子をもらって糸を把持してみたり、命を預かり、全く違う個人の、それぞれ違う訴えを聴いているのに、なんだか自分が、頭を使わずに仕事をしているような気がすることがあるのです。

 医者になったばかりの頃は、採血ひとつ、点滴ひとつに大騒ぎしていたのだし、それを考えれば進歩したのかも知れませんが、ある程度良い出来だと思っていた検査が、実は見当違いの結果を出していたりとか、その度に大きく凹んで、まともな注腸検査をするぞと息巻いているそばから、前処置不良の患者さんにバリウム便をひっかけられたりしている毎日。

 今日も朝から回診したり、動脈血とったり、化学療法の点滴さしたり、2件あった手術の助手したり、術後の尿量に目を光らせたりしているうちに、日付がかわりそうな時間になっているのです。何をするにも時間が必要。肉体労働が必要。

 僕はいつも活字とか知識とかに飢えていて、名作と呼ばれる小説を読んだことが無いことが嫌で仕方無いし、現在の流行書も読んでおきたいし、マンガも結構好きだし、映画も観たいと思うのです。手術書は一度じゃ覚えられないし、患者さんへの説明には統計学的データも必要で、学会用のスライドもつくらないといけないのです。なんだかやりたいこととやらなければいけないことが膨大すぎて、どうにもならない気もしてきます。

 かつては、買ってきた本なんて、ほぼ例外なくその日のうちに通読していたものですが、最近は、供給過剰になっています。CDのジャケ買いとか、本のまとめ買いとか。いつでも買えると思えば、あわてて買わなくてもすむのですが、ゆっくり書店を物色する暇もそうそう無いので、ファーストインプレッションで惹かれたものを、次を待たずに買ってしまうようになったみたいです。

 僕は何を焦っているのでしょう。