「患者の気持ち」-0454-

 胃カメラ6件と回診を終えると、今日は奇跡的に大きな検査の予定も入っていないし、乳癌検診の予定も入っていないのでした。

 そんな平和な日を狙って、やっぱり急患はやって来るのです。尤も、忙しい日にもやっぱり急患はやって来て、さらに忙しくなったりするのですが。間違って他科の受付をしてしまったせいで、外科外来を受診しはぐった女性は、背部の感染性のアテローマで、膿をこぼさないように苦労しながら、外来で局麻下に袋ごと切除。かつて、全身麻酔でお腹をあけるような手術に比べ、局所麻酔でちまちまとやる小手術が、かえって痛そうに見えて苦手だった時期もありましたが、救急外来で外傷を嫌というほど診たり、巻き爪の手術で爪を引っこ抜いたりしているうちに、なんとなく平気になってきました。

 巻き爪と言えば、僕もずっと痛い思いをしていて、家族に嫌がられながら、自分でめり込んだ爪をほじくったりしていたものです。巻き爪という病気自体を知らない父親に至っては、爪がめり込んでいるのは当たり前だとか言って怒っていたりもしました。僕自身も、そういう病気が割と良くあるなんて知らなかったし、病院へ行くという発想もなかったんです。

 まあ、いろいろ不都合だということで、昨年、大学で研修医をしているとき、自分の科でやってもらうのはなんとなく嫌だったし、各科にわかれたカルテシステムの中で、皮膚科のカルテは別疾患でつくってあったことなどから、同級生を通じて、皮膚科医に手術を依頼し、外来が終わったあとの時間、僕の手術が無い日に切ってもらったのでした。その直後から普通に仕事したり、忘年会か何かの芸の練習をしたりしたのでした。

 慣れたとはいっても、自分が手術台にあがることは滅多に無いわけで、あのときはなんとなく患者さんの不安感がわかった気もしました。今日はB型肝炎ワクチンを病棟の看護師さんに筋注してもらったのですが、相手が医者や看護師だとお互いにかなり緊張するようです。採血されるときなんかも、本当はわかんないうちにとっちゃって欲しいのですが、あれもお互いに構えて、針先をじっとみています。また、そういうのは絶好の、新人医師や看護師、あるいは学生の実験台なわけで、自分の血管に針を入れるのを指導しなければならないこともあるのです。大学時代、あるオーベン(指導医)が、研修医に自分の体でCF(大腸ファイバー検査)させたという話をしていました。たいそう辛かったそうです。

 夕方には外傷性の血気胸の男性がやって来ました。やたら横柄な感じでしたが、嫌な客だからと追い返すわけには行きません。例えば治療のための胸腔ドレナージなんていうのは、その手技を受けるのも苦痛で、管が繋がれるのも苦痛だと思うし、それを入れたからって、痛みがとれるわけでもなんでもないんだろうけれど、入れなきゃいけないものなのです。もちろんある程度、苦痛を取り除く工夫はするわけですけれど、いい年した大人に過剰に騒がれると少々げんなりするのです。本当なら優しい言葉のひとつもかけてあげるところなのですが、ちゃんと説明した上で、それなりの処置をした上で見当違いの暴言を吐かれれば、「骨折しているので当然痛いです」とか冷たく言い放つしかなくなることもあるのです。

 もちろん患者本位の医療を目指すのだけれど、それは別に患者の言うことに全て従うとかそういうことではないのです。病院への投書に過剰反応し、内容を吟味もせずに、言いがかりのような内容に、第三者が勝手に謝ってしまったりするようなこともあるようですが、理想的な医療機関は、毅然とした対応をとるべきときにはそうするべきです。