「愛の日赤の罪について」-0492-

 僕ら医師という人間は、やたらと職場が移ったり、当直やら検診やらのバイトに出かけたりして、1年間の間に複数の勤務先から給与を得ることが多いので、毎年、確定申告が必要になるのです。昨年1月から3月は大学を拠点に、いくつかの病院に行っていて、さらに現在勤務している日赤病院の給与を含め、5枚の源泉徴収票をあつめてせっせと確定申告書を書いたところに、日赤血液センターからの源泉徴収票が、いまごろになって届いたものだから、申告書は訂正だらけになってしまいました。面倒くさいことこの上なかったです。もう少し早く送ってきて欲しいものですよ。しかし、それによると、僕、去年2回くらい献血ルームに行っていたのでした。

 源泉徴収票が遅いのが罪、っていうかそんなことじゃなくて、図らずも僕が差別側にまわっていまったことで、さらにその思いを強くした、献血にまつわる日赤の、あるいは社会全体の罪ということを思い出したのです。献血をする人、および輸血を受ける人の健康を守るという明目で、採られた血は、様々な感染症などの検査をされるわけですが、その前の時点で、必ず「問診表」というものを記入する必要があります。日赤のマニュアルがあって、その問診で、献血禁止の基準にひっかかる人は、有無を言わせず献血禁止なのです。

 BSE問題などにも絡んで、海外居住歴や旅行歴なども、地域や期間などが細かく規定されていて、そのほか血圧の値とか、最近の内服薬についてとか、そういう質問と並んで、日本中の人権団体からやり玉にあがっているのが、「同性愛者の献血禁止」の項目です。献血に初めて同性愛の問題が登場したのは1987年のことで、男性同性愛者がエイズとの関連で献血できなくなったようです。様々な権利団体からの働きかけなどもあって、1993年に一時緩和されるも、その後、1995年より、今度は女性同性愛者も含め、献血不能になりました。

 この背景には、日赤や国が、輸血による感染の発症と、「薬害エイズ」にからんだ訴訟の増加を極めて恐れているという背景があるようです。また、検査目的に献血が利用されているのではないか、という思いを強くしたようです。

 その後、旧厚生省の検討会議が、権利団体なども含めて行われた結果、男性同性愛者の献血に関しては門戸を開放せず、まずは女性同性愛者の献血を許可するという改正案が採択されたようで、2000年3月25日から、僕がバイトで見たのと同じ、現在の問診表になったそうです。

 この1年間に次のいずれかに該当することがありましたか。(該当する項目を選ぶ必要はありません)

(1)不特定多数の異性と性的接触をもった。
(2)男性の方:男性と性的接触をもった。
(3)エイズ検査(HIV検査)で陽性といわれた。
(4)麻薬・覚醒剤を注射した。
(5)(1)〜(4)に該当する者と性的接触をもった。

 結局、同性愛者であると、自動的にエイズのハイリスクであると決めつけているわけです。エイズに限らず、性感染症は全て、「セイファーセックス」という概念、すなわち、避妊という意味合いではなく、あくまで感染症予防の概念として、正しくコンドームを使用するということで予防することが推奨されていて、これは別に相手が異性であろうが同性であろうが関係の無い話です。不特定多数の相手と、正しい感染症予防をしない性行為が、様々な感染症の危険性を高めるのであって、同性愛者という存在が、感染症を広めるわけではありません。

 逆に言えば、多数派である異性愛者たちが、こういう問診表を目にすれば、同性愛者でなければエイズの心配は無いという錯覚を持つことにも繋がり、異性愛者へのセイファーセックスの普及を妨げているような気もします。同性愛者たちは、常に社会からの差別に敏感であるために、こういう問題への理解も高いと言いますが、異性愛者たちは、いまだに「セイファーセックス」を「避妊」のことだと勘違いしていて、感染症の理解にはほど遠いようです。

 愛の赤十字社は、今年の学会のメインテーマにも愛を掲げているのですが、愛を謳いながら、ある愛を差別しているということを自覚すべきだと思うのです。