「当番病院」-0493-

 二次救急の当番病院、という制度があるにはあるのですが、僕の勤める日赤病院の周辺に、きちんとした救急体制をしいていたり、夜間の手術を行っているような病院なんて皆無で、また、日赤の信頼感によって、例え僕が一人で病院に泊まっているような時であったとしても、周辺に急患が発生すれば、手当たり次第に患者は日赤を目指すのです。決して大袈裟でなくて。

 そんなわけで、当番病院であるか否かは、こういう田舎の病院においては、その日にどれくらい患者が搬送されてくるかの基準にはならないのです。木曜日の夜から降っていた雪が、患者さんが病院に行くのをためらわせる原因になるのか、怪我人をたくさん作り出す原因になるのか、その時によって様々です。昨日、当然日中は普通の仕事をして、小さいながらも手術を二例執刀して、病棟の仕事なんかをこなしている途中、夕方6時くらいにやって来た最初の患者さんを皮切りに、他科のステルベン(死亡)を診たり、怒濤のように押し寄せる救急車に対応したり、受診理由がよく分からない人にの対応したり、急性アルコール中毒に説教したりして、途中なんとか食事はとれたものの、夜中の3時頃まで途切れること無い診療に追われ、医局に戻ったときは疲れ果てていたのです。

 昨日の雪は僕にとって悪魔で、同じ救急隊員が何度も交通事故とか転倒とかを運んできて、頭を打っていたりすれば重大な損傷の可能性も否定できないし、決して専門じゃなかったけれど、この病院に勤務するようになってからは何十枚もみてきた脳のCTとか頭部三方向のレントゲンなんかを、一晩で何枚も見続けるのでした。

 また呼ばれる予感もあったし、当直室のベッドで本格的に眠るような気分でもなかったので、医局のソファで1時間くらいうとうとしていたら、また交通事故とか転倒とか。物好きにも雪の中、スキー場にでも向かうつもりだったのだろうか、県外の人間もやって来ます。この病院の特徴のひとつで、連休とかそういう時には、観光客が多く訪れるのです。そういう要素もあるので、患者数の予測が難しいわけですが、一気に押し寄せれば病院のキャパシティを軽く超えるわけです。

 気付けば外はもうすっかり明るくて、10時過ぎまで救急外来に入り浸ったあと、ようやく病棟の回診とか、昨日入院させた患者さんの指示を出し直したりとか、休みに見舞いに来た患者の家族の求める説明に応じたりして、午後にようやく帰路につき、シャワーを浴びてベッドに潜り込むのでした。目覚めれば、また雪が降っていて、昨日何度と無くきいた、あの救急車の音もきこえてきます。今日の病院は小児科当直で、外科治療を要する患者がやって来れば、きっとまた僕の出番です。