「リハビリニッキ」-0519-

 僕の所属する外科は、現在6チームに別れて専門医療を行っています。それぞれに指導医がいて、最低一人の研修医が属しています。そこへ中途半端な身分で中途半端な期間勤務する僕が飛び込むわけですが、いろいろ相談した上で、主に下部消化管と呼吸器の患者さんを中心に担当していくことになったのでした。

 初日から肺と大腸の手術に一件ずつ入ったのですが、巻き爪など、外勤病院外来で行った小外科手術以外では、久々の手術。いままでは、ICUでもっぱら手術場のカーテンの麻酔器側、周術期の術期以外を担当してきたのです。実に半年ぶりに、外科医を志そうと思った2年半前の頃を思い出したのです。

 実際やはり大学というところは何かと忙しいところで、復帰してまもなく、慣れないということもあり、正式に異動になる日の前日から、夜中まで働くのでした。今日から毎週訪れることになる外勤病院も変更になったのですが、そこでの初仕事は、整形外科手術の助手で、その後、大腸手術の麻酔医。また、いきなり新しい仕事を振られるのです。

 最初の一年大学にいた頃は、大学の嫌な部分ばかり目について、なんてひどい医療をするのだと憤ったものですが、この国にはいろんな病院があって、それを少しずつ知るにつれて、大学への思いも多少変わってきました。患者さんの疾患全てに、全ての専門家をそろえるとなれば、どの病院も大学病院並みに医者を雇わなくてはなりません。大学というところは、融通がきかない部分は大きいけれど、患者さんの問題点について、なんらかの専門性を必要とすれば、病院を移らずとも診療を受けたり、検査を受けたりすることが、市中病院に比べれば容易であり、それは、時に大きな力を発揮します。

 当然、妥当な範囲で専門を超えることは必要なことで、外科医が初めての整形外科手術に入ることもあるだろうし、突然麻酔医としての役割を与えられるかも知れません。正直、そうやって専門の枠を飛び出して、いろんな力をつけていく部分もあるとは思います。無論、十分なフォローアップが無い状態では、単なる素人医療、無責任医療に貶められてしまうのですけれど。理想としてはオールマイティーな医者であって、その幻想が、研修医制度の全科ローテート方式などにあらわれるのでしょうが、所詮外部の人間には、良くできた研修システムなんてつくれるわけがないと思うのです。僕らがどうやって医療を学んでいるのか、それを外部の人間にわかってもらうのは難しいです。無数に疾患はあるわけで、どんなベテラン医になっても、初めてみる患者というのがあらわれないとは言えません。そして、自分の知識の範囲内で、最良の医療をやろうとするのだけれど、いつも相手は機会じゃなくて生きている人間で、自分の持っている知識がアップデートのものかわからないし、治療効果はいつも確率の世界なのです。

 まあ、とにかく、外科医リハビリ中。病棟で2年前担当していた患者さんが、今もまた何度目かの入院をしているのです。挨拶にいったら喜んでくださり、自分が辛い状態の中で「医者らしい顔になったね。頑張ってね。応援しているからね」と。とてもクサい話に聞こえると思うのだけれど、僕が綴る汚い本音と同様、こういう、きれいごとのようなお話も僕らの真実で、こういう言葉を心の糧に働いているという部分は大きいのです。

 タイトルに何か別の期待をされた方はすみませんでした。あの方は元気でやっているのでしょうか、とごく一部の方向けのメッセージ。