「整形外科医ザウエル」-0524-

 僕、外科医ザウエル。今日は外勤病院で、大腿骨骨折の観血整復二件と、膝蓋骨々折整復一件の手術でした。なんて書いても、実は一般の人々はなんの違和感も感じないのかも知れない、と思ってみました。ひとくちに外科手術、といっても、内科医と精神科医以外は外科系なんて括られるわけですので、頭のてっぺんから足の先まで、全ての部位で手術の可能性があるわけで、その受け持ち分野は細分化されています。本当は全部できればいいのですが、それはちょっと無理な話です。

 僕が現在おおむねメインに学んでいるのは、消化器外科領域で、主にお腹の中の臓器になります。胃・十二指腸・大腸・肛門・肝臓・胆嚢・膵臓。その他、乳腺や甲状腺の手術にもたまに関わります。また、現在呼吸器チームにも絡んでいるので、肺癌なども扱うわけですが、胸の方へ範囲が及ぶと、胸部外科という括りになってきます。胸部外科はまた食道・肺・心臓と3領域くらいにわけられています。食道は消化器外科の中でも少し特別な領域。また、肝臓などの実質臓器は、消化管とは全く別の世界。胸腺とか、縦隔腫瘍というのも胸といえば胸なのだけれど、またちょっと違う括りに。あとは、子どもを扱う小児外科という括りもあります。一口に小児外科といっても、消化器中心にみるのか、心臓中心にみるのかで話がかわってきます。扱う臓器は同じでも、免疫学などの知識も必要となる、専門化された領域に、移植外科なんてのもあるわけです。

 頭の手術も骨折も、昔はなんでも「外科」だった時代があるわけで、いまだに、慶応大学あたりで、「外科」の中の「脳神経外科グループ」なんていうのもあるのですが、事実上、まったく別の集団であり、独自の専門領域として扱われていて、虫垂炎の手術で修行して、いずれは脳腫瘍を扱う、というのは、現在ではまず無いコースとなっています。

 外傷っていうのは、筋肉とか腱とか神経とか骨とかを扱う外科、整形外科のほうが専門なのだけれど、表面の簡単な外傷は、いろんな外科系の医者が診ることがありえますし、うまく分類できなかったり、専門医がつかまらなかったり、全身状態が悪いような場合、ジェネラリストとしての外科医は便利に使える存在なのです。

 病院なんてなるべくなら利用したくないところであるし、マンガなんかに出てくる医者たちは、なんだかいろいろすごいので、みんな外科医が本当は何ができるかわからないわけです。僕ももちろん、医者としてこの業界に飛び込むまではそんなことよくわからなかったし、なるべく広く病気を診たいという思いから、なんとなく一番範囲が広そうな「外科」を専門として選んだのです。便利に使ってもらえるというのは、有り難い事だし、自分の望んだことかも知れません。ただ、やはり限界はあるし、他に専門医がいる状態で、僕らがファーストコールである必要が無いのに、なんとなく呼ばれてしまったりして、結局専門科をコールする二度手間になるとか、なかなかうまくいかない部分もあります。

 毎週木曜日に訪れる病院は、整形外科メインのところで、昼間は院長とふたりで整形外科の手術をし、そのまま朝までは当直という業務をしているのです。僕らは切り傷を縫ったりはするけれど、骨にドリルで穴をあけてネジでプレートとめたりとかは、通常しません。しかしなぜか、この病院にはずっと外科医がパートで訪れているようなのです。なんとなく不思議な気もするのですが、貴重な経験として、有り難く整形外科手術をさせてもらってます。他の科でどういうことをやっているのか、実はあまり知らないので、すごく新鮮です。

 さて、まあ、少なくとも、大腿骨骨折は整形外科が扱うということに、医療者が疑問をはさむ余地はないのですが、中には、扱う科のせめぎあいのある臓器もあるのです。腎臓病を扱うのが、その病院によって「腎臓内科」だったり「泌尿器科」だったり。透析室をどっちが管理しているかも様々です。そしてこの外科的治療、腎移植を行うのが「外科」だったり、「泌尿器科」だったり。直腸癌が子宮とか卵巣とか、あるいは膀胱とか前立腺とかに及べば、それを外科医だけで扱うのか、「婦人科」や「泌尿器科」に相談するのか。さらには、大きな病院だと、複数の科で同じ疾患を扱っていたりして、別の科から他科紹介するのに、ランダマイズしているなんて話をきいたりと、いろんなワビサビがあるようです。医療の本質を見失っている気はするのですけど。

 その一方で、明らかに外傷患者で、整形外科管理が望ましいような患者を、たまたま外科医が当直中に診た関係で、なかなか転科を受けてもらえない状態で、消化器外科に入院していたり、やけどの乳児を、全身管理が出来ないから、という理由で、皮膚科にまわせずに、初診救急当番の脳外科医が診続けたりと、医者同士、診療科同士の壁が厚いような場合、いろんな歪みもあるのです。

 オールマイティーな医者にはなれない以上、複数の医者たちが、もう少し風通し良く診療できたら良いのですけれど、大きな病院になるほど、そういうことが難しくなるようです。良き医療を。