近況

 大学へ戻って激務の濁流に飲み込まれ、その流れに抗ったり身をまかせたりしているうちに半年が過ぎました。慣れたといえば慣れたし、いつまでも慣れることがないといえばそうでもあります。
 僕の専門としようとしている領域は、消化器外科の中でもまあハードでマッチョな領域でして、体育会系とは縁遠い立ち位置の僕には荷が重いところもあるのですが、そこに食らいついていくのか、違うところを目指すのか、激務の中で考えることが面倒になって結局今日も早朝から深夜まで大学病院内をバタバタしているというのは、10年ほど前に医師免許をもらったばかりの頃、同じように経験していたのですけれども。
 医療が激務なのは覚悟していたといえばしていたのだけれども、なんというか業界の労働強度が両極すぎます。一線でバリバリやるのか、徹底的に退いて悠々暮らすのか。その中間くらいの場がないから、いろいろ思い悩む人が出てくるのです。女性医師が働きやすい現場を、といいますが、こんなに休みもとれず、完全に病院に生活を握られる生活、男性医師にとっても極めて働きにくいのです。
 何年か働いて立場が変わったら解決するのかなと淡い期待を抱いてみたものの、十年たっても変わらないのを見るにつけ、これは何か大きな力と意思をもって変えない限り変わらないということが確信できました。僕にとって、誰かと約​束をするのが難しいというのがこれ以上ないストレスです。こんな前時代的な丁稚奉公(しかも番頭さんへの道は限りなく遠い)システムを改善しないまま、「外科医の減少を憂う」なんて言っているのはちゃんちゃらおかしい。でも、僕は確実にそのシステムの一翼を担ってしまっているのです。
 教授が「人生は一度しかないんだから一流を目指せ」というたびに、一度しかない人生の限られた時間の使い道について思い悩み、仕事以外のことがほとんどできないということにストレスを感じているのであれば、飯の種として割りきって労働強度を下げ、プライベートに時間を割くこともまた真であると思うし、あるいは、語学や法律や経済の勉強を大学に入りなおしてでもしてみたいという思いとか、エイプリルフールネタで書いたものの、心の奥底で渦巻いている、海外での医療とか、政治への参加という希望というか野望も持っていないわけでもなく。
 人生の終わりが十年短くなった以外は、考えていることは十年前とおんなじです。