羊と鋼の森

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 海外で暮らすようになってから、読みたい時にすぐ手に入り、かさばらない電子書籍というものにも手を出すようにはなってきましたが、できれば紙の本をめくりたいと思い、一時帰国の際に目についた本をわさわさと買うということをしています。2016年本屋大賞受賞、そうやって目立つ場所におかれている本は、やはり手に取る機会が増えるわけで、毎年大賞作品を必ず読むというわけではないけれども、まあ振り返ると結構読んでいるような気もします。
 一つのことに誠実に取り組んで極めていく、ということが絶望的にできない僕にとって、一つの道にじっくり取り組むことのできる人というのは尊敬に値するし、そうした物語には非常に感銘を覚えます。静かで力強い文章。短いセンテンスが心地よいテンポで綴られて、ラストまで同じような静かな、しかし力強いテンションで綴られる物語は、まさに主人公の心をそのまま映し出してるような、そんな心地よさを感じました。
舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

 一つの物事をつきつめていくというテーマを同じくするという意味で、2012年に本屋大賞を受賞した「舟を編む」とも似た読後感でした。「舟を編む」の方が、より目に見えてわかりやすい目標達成の場面や、人生における大きなイベントの描写などがある一方で、「羊と鋼の森」には、一見そうしたわかりやすいなにか大きな盛り上がりというのは描かれていません。しかしながら、僕にとっては「羊と鋼の森」の文章は、静かではあるけれども、むしろより力強いものであるようにも感じました。