君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

 読了。別に本というのは難解である必要は無いし、伏線やらプロットやら謎やらが想像通りに進んでは行けないというものでは無く、心を打つものがあるのは確かなんですが、いろいろと勿体無いな、とは思いました。
 膵臓というのはたまたまのプロットであって、多分具体的な何かは想定されていないから、膵臓に抱えている何かと、ヒロインの行動との関係性が全く不可解に思えてしまうのはまあ職業病なんでしょうね。ファンタジーとしてはそれでいいのかも知れませんが、せっかくなら具体的な何かを想定して、そこに矛盾しない描き方をしてもよかったのではないか、とは思います。それに関して作中で詳しく語られることは結局無いし、話の筋には関係ないと言われてしまえばそれまでです。
 主人公のそれまでの生き方と、会話の切り返しのイメージがうまく重ならないところがあって、そのたびに読書の世界から引き戻されてしまうことがありました。作中でそれを意識しているということがややあからさまに語られるように、ある作家のような会話の妙っていうのをこの作品の肝の一つとしようとしているというのは分かるのですが、それにしてはテンポはあまり良くなくて、一読してスッとは入って来にくい台詞回しも少なくありませんでした。いや、むしろ主人公のそれまでの生き方故に、これくらいのテンポの悪さがあったほうがリアリティがあるのだ、という考え方ができなくもないのかも知れません。実際、一息で吐くように飛び出した表現にハッとするような箇所もありましたし。
 大きな伏線のように最後まで引っ張りながら、あんまり回収されていないようなアイテムについても、どうにも気になってしまいました。無理に入れ込まなくてもよかったのでは、という気もします。
 なんとなく本筋とは関係のないところがいろいろと気になってしまう作品ではありましたが、心を打つものがあったのは確かですし、これはデビュー作ということなので、機会があれば別の作品も読んでみようかな、と思います。