「ラパ胆とか」-0463-

 胆石の治療には、まだまだ手術が必要です。肝臓の下のあたりにへばりついている胆嚢をとるために、かつては大きくお腹を切らなくてはなりませんでしたが、今日では、腹腔鏡下胆嚢摘出術(Laparoscopic cholecystectomy)が標準術式となっています。もちろん炎症が強かったり、いろんな理由で、ラパロ(腹腔鏡)での手術が難しい時は、開腹術に切り替わるのですが、術後の痛みとか、退院までの日数などは格段に改善されています。通称、ラパ胆とかラパコレとか呼ばれるこの手術、ヘソの近くからカメラをつっこみ、いくつかの小さな穴からマジックハンドみたいな道具を入れて操作します。当然開腹術にくらべればまどろっこしい方法なので、時間も余計にかかるのです。ちなみに、ラパコロン(腹腔鏡補助下大腸切除術)、ラパマーゲン(腹腔鏡補助下胃切除術)とかいった手術もあります。

 外科医のステップアップとして、2年目の僕に与えられる執刀例は、アッペ(虫垂切除)、ヘルニア(脱腸)、ヘモ(痔)の他、ラパ胆もそうなのです。アッペもピンキリで、切って縫って終わるものから、膿だらけのお腹から虫垂を探して、洗って、ドレーン留置するもの、あるいは回盲部切除を要する物まで様々ですが、ラパ胆も、ブラ胆と呼ばれるほとんど炎症の無い、まさに取るだけの症例から、癒着バリバリの症例まで様々です。

 今日のラパ胆もけっこうな炎症で、結構な苦労をして、おそらく前立ちをしてくださった先生はそれ以上の苦労をして、なんとか終了。こういう症例を終えても、なんだか自分で手術をうまくこなした気がしないのでした。一昨日のアッペは、癒着なども無く、非常にスムーズに行って、ものすごく気持ちよかったのですが。

 その他2例の手術が平行して行われたあとは、救急外来へ呼び出され、腹痛の患者さんをみているところへ、交通事故で意識不明の患者が搬送されて来たのです。気管内挿管、末梢静脈ルート確保、全身をざっと診察した上でCT室へ移動。そんなこんなで、結局最初の腹痛患者は、内科の先生にお願いし、僕の仕事は、より生命の危機にさらされた次の患者へうつるのです。シビアな臨床症状、CTからは脳ヘルニアが見て取れるのでした。脳神経外科の先生が駆けつけてくれたが、家族へは、もはや手術で救うことは難しい状態である旨が伝えられるのでした。

 その頃病室では、末期癌の患者さんの意識レベルが徐々に低下しているのだし、術後の患者さんのガーゼが汚れているのです。僕の勤める病院の外科は、主治医制をとっておらず、4人で全てを診るという明目、実質ファーストコールはすべて僕という体制がとられているのですが、そうすると、20人とか30人を一気に受け持っていて、みんな調子が良ければ良いけれど、そのうちの二人くらいが同時に調子が悪くなるだけでいっぱいいっぱいになってしまうのです。同様に、日勤帯には一杯いる看護師さんも、深夜勤では病棟に二人くらいの体制でやっていて、そこで同時に二人くらいの急変患者が出たら、やっぱりいっぱいいっぱいになってしまいます。

 たくさんの命を預かっている職場、労働者の過酷な労働で全てに対応しようとしても無理があるとつくづく思います。