手術をするというお仕事

 今日は直腸癌手術の執刀でした。特に問題なく終了しました。こういった外科手技を仕事にするために僕は外科に入局し、今もまだ外科に留まっています。
 外科の中でも僕は特に消化器の手術を専門としているのですが、消化器の手術のうち最も多いのは癌の手術です。抗癌剤放射線治療が発達した今なお、手術は消化器癌の治療の中心にありますので、外科医というか、消化器癌治療の担い手であるという自負があります。
 僕が外科医を志した9年前の時点では、まさか外科医がこんなにも複雑な抗癌剤治療を行うとは思ってもみなかったのですが、腫瘍内科医というのがまだまだ全然足りない現況で、僕らは手術以外に抗癌剤治療をたくさん扱っています。
 僕が今働いている病院は、外科3人という小さなチームですから、手術中はみんなそこに手をとられてしまうので、本来ならば医師が常にそばにいるのが望ましい抗癌剤治療が、手術の合間に行われるということになり、「外科医が片手間にやる抗癌剤治療は良くない」なんて言われたりもしています。しかし、僕らも手術に専念できるならそれにこしたことは無く、是非抗癌剤の専門家に治療を担って欲しいと思いながら、しかしそれがかなわないために、きちんと最新の治療を追いかけて患者さんに呈示し、治療を行って副作用の管理もしているつもりなのであって、それを「片手間」と言われてしまうのは心外といえば心外です。
 当地では消化器内科医の数も十分とは言えず、我々は術前検査から術後のフォローアップまで担うし、外科手術の適応ではない消化器疾患を扱うことも多々あります。胃カメラも大腸カメラもそれなりの数こなしています。
 かつて癌の治療は、手術で取れるだけ取ったあと、遺残や再発、転移に対してはあまり有効な治療が無いという時代でした。現在では先に述べたように、抗癌剤放射線治療がそれこそ月単位で進歩しているので、進行・再発症例に対しても、治療を行えるようになってきました。
 かつては亡くなっていた患者さんを救えるようになってきたということは、一人あたりの患者さんに対して行う検査や治療が濃密で長期になってきたということであり、同じ数の患者さんに対して、必要な医師や医療スタッフの数、それに費やされる医療費の額は増加し続けているのです。
 そういうことを無視して、机上の計算で医師は不足しているのでは無く偏在しているのだとか、たくさんの「がん難民」がいるのだとかいうことを言われてしまうと愉快では無いなと思うのです。
 手術をするお仕事のために外科医をしていますが、実際手術をしているのは、今の病院では緊急をのぞいて週に3回、午後だけです。あとは週に2回胃カメラをして、週に2回大腸カメラをして、週に1回外来に出て、あとは病棟で創の処置をしたり、何か管を刺したり、抗癌剤を使ったりしているのです。