医療を刑法で裁くな

(2005.6.16.初出)
 僕は常々、明らかに悪質なものを除いて、医療過誤などの問題が刑法で裁かれるというのは問題だと思っています。応召義務というもので縛り付けておきながら、その結果を刑法に当てはめる、ってのは違和感が強いです。

 法律の世界の常識として、一般的に、法律制度の未発達な段階では、秩序の維持のために刑事罰に依存するといわれています。民事訴訟あるいは行政手続法が発展しない場合には、刑事罰に依存する部分が大きくなります。しかし、これは、いわば「見せしめ」「生贄」として刑事罰に晒す(一罰百戒)という方法であり、この威嚇は、一時的な予防効果を発揮しても、長期的な改革を進めることにはなりません。この手続きは、非常に閉鎖された空間で行われ、そこに至る経過は説明されないことが多く、積極的前向きな改善を検討する場もありません。故に、特に、医療行為の是非を検討するのに、刑事手続は相応しくないと考えられます。

 医療とは、患者の同意の下に身体に危害を加えるという特質があります。よって、刑事罰として値するものは、故意、重過失となります。医療においては、軽いミスは必ず起こるといえます。すべてのミスが刑事事件にはなりえません。しかし、過失と重過失の選別は、それ程容易とは思えません。警察に踏み込まれたときには、単なる過失も犯罪であり、マスコミに生け贄にまつりあげられます。本来、医療への刑事罰は、故意または故意に近い重過失に限定すべきだと思います。単なる過失行為は民事訴訟行政処分の範囲に委ねるべきです。どうしても、刑事罰的な裁き方をしたいのであれば、あくまで、他の刑事罰とは分けて考え、医療過誤を裁くための法律をつくるべきだと思います。

 例えば、日本が医学・医療を導入するに当たって見本としたドイツでは、非常に悪質な、故意に近い医療過誤の場合は刑事訴追されることもありますが、通常の過誤や自己の場合、まず刑事訴追されることはないそうです。ドイツ医師会は医師職業規則を定め、2審制の医師職業裁判所を持っていて、それを審判に使っています。