医療崩壊

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060516#p1

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か

 以前少し触れた本ですが、増刷を待って手に入れ、本日読了しました。医療を受ける可能性のある全ての人に是非とも読んで欲しい本です。とは言っても、一般の方々がこの本を手にとる機会は多くはないと思います。ただせめて、医療記事を扱うジャーナリスト、医療事故に立ち入る警察や司法関係者には、読んで頂きたいと強く感じます。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060303#p1
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060312#p1
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060228#p2
 さて、僕は、福島県の大野病院の産科医不当逮捕事件に絡んだ一連のテキストの中で、「慈恵医大青戸病院の事件のように、医師の刑事事件扱いが已むを得ないと考えられるものもある」というようなことを述べました。本当は医療に限らず、過失犯を刑法で裁くこと全般に強い違和感を感じていますが、それでもなお、多少なりとも「故意」や「悪意」が感じられるものには已むを得ないとは思います。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060219#p2
 慈恵医大の例は、医師の側に「未熟な技術」「正規の手続き無視」といった問題があったと報道され、僕もそう捉えていたのですが、それらについても、誤解がたくさんあるようです。この本を読むと、「この件では刑事事件も已むを得ない」という考えも大きく揺らいできます。この「医療崩壊」の中でも、青戸病院事件に関する報道の裏の情報についてたくさん触れられていますが、小松氏の以前の著作に、より詳しいようです。僕はまだ読んでいませんが、後で時間のある時に目を通しておきたいと思っています。 その他、例えば薬剤エイズ訴訟についても触れられていました。当時我々に伝わってきた内容は、「行政と医師の怠慢・製薬会社との癒着」というようなものであり、実際僕も「極悪人の医者」というイメージを持ち続けていました。しかし、実際には、専門家をもってしても、その危険性が十分に分かっていなかったようで、日本以外の先進国でも、その被害の拡大を防げなかったようです。当時、むしろ、不確定な要素によって、血友病治療に非常に有用であった血液製剤の使用をストップさせるという判断はできなかったという考え方もあるようです。そうなると、個人の責任というよりは、システムの問題です。また、最前線で精力的に働く専門家は、熱心に取り組めば取り組むほど、何かの際に責任を押しつけられやすいというような問題についても触れられていました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E5%AE%B3%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 また、医療以外の現場での、システムの問題を個人の責任として処理するということの問題が複数あげられていました。また、あまりに古い時代背景に基づいた「刑法」の問題点、司法の世界での歪んだ「常識」などについても明確に述べられています。医師会・政府・大学といった権力の持つ問題も、その通りだと思います。
 それでもなお、僕は著者が批判し、また、自分でもうすうす感じているような、問題の多い、旧来のシステムにどっぷりとのっかっています。臨床に従事する外科医として、決してプラスにはなりえない大学院に在籍し、インパクトファクターという数字遊びに踊らされています。
 いろいろ考えさせられる本でした。思いを整理しないまま書いているので、文章が混乱していますが、後日整理してまた綴ってみます。