「アッペ、ヘモ、ヘルニア」-0486-

 アッペ、ヘモ、ヘルニア。若い外科医がみんな通る道なのです。「疾患を軽く見るな」と、略語で扱うことを嫌う外科医も少なからずいて、だから僕も、手術記事には必ず、「虫垂」か「appendix」といった記述をするのだけれど、とにかくアッペ(虫垂炎=appendicitis・虫垂=appendix・虫垂切除=appendectomyすべての略語足りうる一語)、ヘモ(hemorrhoids=痔核、痔瘻はanal fisutulaだが、広義に含んでしまうこともあり)、ヘルニア(外科で扱うのは主にいわゆる脱腸=鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアなど)は、研修医の登龍門。

 金曜日は、麻酔科の来ない日で、腰椎麻酔を自前でかけながら、ヘルニアとかヘモの手術をする日なのです。予定手術は、大腿ヘルニアと、内痔核。ヘルニアの手術中に、アッペの急患の知らせが入るのでした。研修医の三大執刀手術が同時に行われた希有な日です。

 今日の3件の手術は、もちろんベテラン医が前立ちとはいえ、全て僕の執刀手術なのでした。なんだかんだ言って、やっぱり自分が執刀する手術はもの凄く楽しいのです。楽しいなんていったら不謹慎なのかも知れませんが、やっぱり手術は楽しいです。自分の成長が、如実にあらわれる瞬間。僕が外科医足りうる時間。この瞬間があるからこそ、僕は日常の時に理不尽な雑務を耐えられるのだと思うのです。

 明日は、二週間ぶりの休み。ただし、病院からコールがかからなければ。