「自称外科医」-0534-

 あらすじ。僕、外科医3年目のザウエル。仕事は嫌いではないけれど、プライベートを大切にすることも人生において大切だと思っている。研究は必要だと思うけれど、臨床の実践だけに関わる人間がいても良いと思っている。少し前に、大学院入学を打診されたのに「嫌です」と即答。「許されるなら、ずっと臨床だけやっていたいし、僕はまだ外科医として何もできない」との思いを常にアピールしている。昨日の手術中に、おもむろに、「臨床やりたいっていうのは、場所は関係ない?」と切り出され、九州の大きな病院へ行くという、全く予期していなかった進路が浮上してきた、関東地方の某大学病院外科医員(27)。

 今日もずっと考えていたのです。臨床をやる病院としてはとても魅力的だと思います。また、そこへ行けば2年間臨床確定なので、少し腰を落ち着けることができます。他の病院へ行くとなると、再来年には大学院入学を強く求められる可能性が高いのです。

 その一方で、僕の人間関係があまりにも関東に集中していて、かつては、自分の求める仕事のためにはどこへだって行くと思っていたのに、ここのところ、東京へのこだわりがあまりにも強くなりすぎてしまっています。って、今東京にいないのですけど。そういう地理的な問題がひとつ。また、学閥などで苦労した知り合いも結構いるので、そういう、医療の本質以外のことでつまらない思いをするのではないか、という恐れも正直あります。

 大学受験のときは、知り合いゼロの地へ単身乗り込んだわけですが、そこは地元からさほど離れた地ではなかったし、第一、同級生たちがみんな田舎だった地元を一斉に離れる時でもあったので、それほど思い悩んだわけでもありません。9年もすんでいると、今の住所はほぼ地元になり、一人暮らしベースで生活していると、実家よりはるかに過ごしやすい地になっているし、一人暮らしと言いながら、友人・知人は大学周辺もしくは東京近辺に集中しています。そこを単身飛び出す勇気が無いのかも知れません。

 何度か日記に書いているように、僕の中で、例えば「結婚」という手段を現時点で全く考えられず、そういう意味での「家族」を拠り所にすることを想定していません。かといって、一人で生きているかと言えば、そうではなく、現状のコミュニティに助けられて生きているのです。ただ、今の医局人事の中で、ある意味温室の中を漂う僕ですが、ニューヨークで研修医をする友人の話をきいたり、新たな臨床研修の話題に触れたり、少し前に、ICU勤務をする課程で、初めて「他科の医師」の仕事っぷりについて詳しくみる機会を得たりしていると、現在の医師としての力量というのが非常に気になってきます。

 場合によっては、医局を飛び出して、スキルアップを目指すのもひとつの方法と常に考えていたし、先日は、なんとなくUSMLEのテキストを購入して、国外という可能性を考えてみたりもしていたのですが、それでいて、僕は少々この地に長くいすぎたのかも知れませんが、大きな変化を望まないような気持ちも生まれているのです。

 今の職場の外科教室としてのスキルを知るためにも、僕は他流試合に打って出る機会はずっと狙っていたし、医局を辞めるでもなく、医局の中の人事として、最先端の病院でレジデント生活を送れるというのは、やはり魅力的なのだと思います。早いうちにもう少し医局長に話をきいてみようと思います。尤も、本来僕のひとつ下の学年、来年研修医を終え、3年目の外科医となる後輩たちの枠として考慮されていたらしいのですが、来年4年目の僕が行っちゃいけないというわけでは無い様子なので、後輩より情熱をアピールしておけば、考慮されるかも知れません。打診があったわけですし。

 というわけで、全ては未確定の要素なのですけれど、例えば僕が今後、大学院で4年を経過してしまえば齢30がみえてくるわけで、そのときあらためて、この病院の枠がもらえるとは思えないのです。心の底で、これが東京だったら、と思っている自分がいないではないのですが、今僕の中で、外科医という道を選んだ当時のような、熱い思いが湧き上がってきているのです。

 そんな可能性が浮上する前の人事希望調査では、第一希望に埼玉の大きな病院を書き、あとふたつは大学近隣の症例の多い病院を書いておいたのです。僕の学年は4人しかいなくて、本来は2年目とか3年目にもまわってくるはずの、そういった大きな病院の枠が、うまく僕らにはまわってこなかったことや、「大学院に入る前に」思い切り臨床をさせてあげる、という教室方針が、次の人事にどう関わってくるのかは謎ですが、いつも2月とか3月とかぎりぎりになって決定される4月からの勤務病院が、もし今決定されるものであるならば、いまから、僕のライフプランを少しゆっくり考えてみたいと思います。宙ぶらりんだと、なんだかそわそわするだけなのです。専門をどう決めていくか、なんて問われても、「一人前の外科医になりたい」としか答えられない法律上は揺るぎない「医師」の自称外科医。

 ああ、悩む。