無過失補償制度とか

 後でなんか書こうかなあと思いながら、ブックマークに放り込んでそのままになっていたものを羅列しておきます。

「死産」を届け出たら「業務上過失致死」? 産科医をやめます

http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2006/08/post_ee1d.html

いくら医療技術が進歩しているとはいえ一定程度の流産・死産は避けられないのが生物である人間の宿命である。
ところが死産を警察に届けたら、「業務上過失致死」で立件されそうだという医師がいる。どうも親の側にも、「お産は安全で、母子ともに健康なのが100%」という思いこみがあるのではないか。

 ネタ元は2chのようです。事の真偽は不明ですが、昨今大いにあり得る話です。これが異常であることに気付かないということが、異常です。

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060825it16.htm

政府・自民党は25日、出産時の医療事故について、医師の過失を立証できなくても患者に金銭補償を行う「無過失補償制度」の創設に向け、本格的な検討に入ることを決めた。

 この問題では、日本医師会が今月8日、政府の公的支出と妊産婦の負担金を財源にした無過失補償制度の構想を発表している。これに対し、厚労省は「政府の公的支出は難しい」としており、産婦人科医側に負担を求めたい考えだ。補償の範囲については、母親と新生児の両方の被害を対象とする方向となっている。

 政府・自民党は、第三者機関が医療事故の原因を究明する制度や、医療関係の紛争を裁判以外で処理する制度もあわせて検討する方針だ。制度の導入により、ずさんな治療行為が横行する危険性なども慎重に考慮する。現在、20歳未満の障害児の養育には特別児童扶養手当が、20歳以上の障害者には障害基礎年金が支給されており、こうした既存の社会福祉制度との調整も必要になる。

 無過失補償制度への第一歩だとは思います。しかし、なぜ産婦人科医が費用を負担するのか。もちろん、医者に重過失があれば、それを産婦人科医のお金で補償するのは当然です。そうではない、已むを得ない、誰のせいでもない不幸なケースを救おうというのがこの制度の考え方のおおもとであり、その不幸なケースは決して医者の責任ではありません。大きく勘違いしているものがネット上にも少なくありません。

事故の補償を全額公費に出させるのか

http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2006/08/88_ada8.html

医療事故に何らかの補償ができる制度が必要だ、という医師会の主張は考えてみてもよいが、今日、医師会が出産に関する医療事故の補償制度の案を発表した。その内容が、財源を政府から60億円拠出させ、さらに妊産婦から負担をさせるというもので、医師自身は何の負担もしない内容。

自分たちの業務上おこした事故の補償に対して、丸ごと公費で面倒見る制度なんて他のどこにあろうか。

 これについては、コメント欄で反論されています。それに対して理解して頂いている様子は無さそうです。やはりこの方も、医療において「不幸な結果」を、すべて「医療被害者」という言葉で括っているように感じます。明らかな過誤によっておきた不幸な結果であれば、もちろん、医師個人や病院が補償する義務を負います。そうではない部分、誰のせいでもない不幸な転帰に関しては、現在、補償制度はありません。そもそも、病院というのは、もともと健康や命が脅かされている人がやって来る場所であり、命が有限で、人知に限りがある限り、救えない命や治せない病気というのはあるのです。それは、当然医者のせいではないから、「補償」する義務は当然ありません。
 また、同じ方が次の記事を書いて、炎上しています。

医師たちのブログの内容に絶句

http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2006/08/89_11f0.html

それを辿っていくと、リンクのリンクぐらいであたる医師のブログの内容がひどいことに驚きます。事故が起きて世論が過敏に反応するものだから訴訟大国になって医療は崩壊する、と一見まともなことをおっしゃっています。そうしたコメントをよく読むと同業者のことばかり考えていて、自分たちの秩序世界だけしか考えていなくて、患者やその家族の納得性や、医療の満足度といったことが全く顧みられていません。パロマ雪印の論理と一緒です。マスコミが騒ぐな、とは一体どういうことなのでしょうか。オレ様医師たちの秩序を壊すような人に、裁判を受ける権利や知る権利など与えてはいけない、という議論に見えます。

 まあ、当然の如く医師(を名乗る人)達の反論により炎上しました。この流れは、とりごろうblogの時と同様であり、予想の範囲内だったので、当時特に言及はしませんでした。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060607#p2
 こうやって、お互いの主張が全くかみ合わないまま終わるのをいろんなところでみてきましたが、医師(を名乗る人)達の側にも、もう少し冷静さが必要だと考えているスタンスは、以前とかわりません。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060610#p2

 医療関係者からは「身内」とくくられる、同じ医師として「医師の品のない発言」に触れると、擁護する気にはなれません。彼らと同じに見られてしまうかも知れないと思うと、その医師に対して、むしろ憎悪すら感じます。ですから、僕は「真っ当な」身内はかばうかも知れませんが、「品のない、不誠実な」医師に対しては、かえって厳しい感情を持っています。それを含めて「身内」とされることには不快感を感じますが、医療関係者以外がそういった感情を抱くのは容易に理解できるし、この誤解はあくまで医療側の責任です。

 内容としては申し分なく、専門知識も、データの解析も、それによる自分の意見にも問題ないのに、やたらと尊大だったり、自分の意図を読めない者をあからさまにバカにしたような物言いをする医師というのは、おそらく、「自分は正しい筋道で話しているのだから、理解しないのは相手が悪い」と断定しているのだと思います。これは、すべてが理論で片付くと思いこんでいる大いなる誤解のなせる技です。メッセージを受け止める側としては「理屈はわかるけれど、感情として不快」あるいは、「不快すぎて内容を判断する必要もない」ということになり、どんなに「正しい」理論であっても、理解には通じません。