医療事故調・学会声明

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20080426#p1
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20080504#p1
 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案―第三次試案―」に対して、各学会から声明が出ていますが、僕の大きく関わる学会である、「日本外科学会」と「日本消化器外科学会」が、それぞれ違う見解を示しています。

日本外科学会(5/14)―賛成

http://www.jssoc.or.jp/aboutus/relatedinf/info20080519.html

 厚生労働省の「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する検討会」において議論されている中立的専門機関としての医療安全調査委員会の設立の趣旨が厚生労働省第3次試案として提示されました。これに関して我々日本外科学会の見解を述べます。
 日常診療の中でも外科診療は最もリスクの高い医療であります。我々外科医が誠意と善意に基づいて診療を行ったとしても、その結果によっては、現時点では何時でも医師法21条による警察届出から刑事捜査の対象になる可能性があります。こうした現状が、小児科、産婦人科、外科における萎縮医療や医療崩壊の元凶となっています。
 厚生労働省第3次試案として提示された中立的専門機関としての医療安全調査委員会は、医療者が自ら医療安全を目指して医療事故の原因究明と再発防止を図ろうとする新しい仕組みであります。現在の医師法21条の取り扱いを改めて、我々医療者を突然の逮捕や不合理な刑事訴追から守るものであるとともに、医の原点に立ち戻って、患者と医師の信頼関係を再構築するための新たな仕組みであると考えます。
 我々日本外科学会は第3次試案に提示された「医療安全調査委員会の設立」の精神を支持し、委員会が真に医療者と患者のためによりよい医療を目指すものとなるように、その成立に向けて努力します。また、この医療安全調査委員会が設立された暁には、この委員会の精神を正しく遂行するために、学会としてあらゆる協力を惜しまない所存です。
 医療は患者と医療者の相互の信頼の上に成り立っています。我々日本外科学会は、患者とともに、また国民とともに日本の医療を守る努力をする決意です。

日本消化器外科学会(4/15)―反対

http://www.jsgs.or.jp/modules/gaiyo/index.php?content_id=1

要旨:「第三次試案に対する賛否」の件

 主たる否の理由:


「故意や重大な過失があった場合」の“重大な過失”の定義を「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると地方委員会が認めるもの」(第三次試案9ページ)とするのは不明確である.
原因究明,再発防止のために設置する医療安全調査委員会の中立性が不明確である.
同委員会による調査中の事例に対する,(遺族からの告訴による)警察の捜査に対しての対応が不明確である.
 まずは上記3点の改善が必須であると考えます.

 これに関して,本会として,次のとおり意見具申いたします.
1.については,「故意や重大な過失があった場合」を,例えば「悪意や故意と同視できる過失」とすると定義したほうが,臨床医として受け入れやすい.
2.については,厚生労働省と完全に切り離した中立的な立場の組織とする必要があり,そのための方策について盛り込むべきである.
3.については,調査・捜査を1本化して,遺族からの告訴があった場合でも,まず同委員会の調査を優先させる.
 これらの点が改善されないかぎり同試案には賛成できないと考えます.

 ま、団体が違うから見解が違ってもおかしくないと言ってしまえばそれまでなんですけれども、実のところ、外科学会と消化器外科学会の役員ってのはかなりの部分で重複しているんです。外科学会という基本領域の学会をベースに、専門にわかれた学会にも所属するのが普通で、外科医の中でも消化器外科医の割合がもっとも多いであろうことを考えれば、その中で役職に就く人が重複するのはまあ自然な流れ。それでいて見解がこうも違うとなんともちぐはぐな感じです。
 伝え聞く話では、外科学会の評議員会でも、当然のように声明案に対する批判や質問が飛び交ったようで、あまり満足行く回答のないまま時間切れとなるような中でなお、前述の声明を学会声明として出してしまったようです。どんな理由があったのかはよくわかりませんが、すでに複数年の任期がある理事長制をスタートさせ、それなりに中身のある議論を行うことのできた消化器外科学会と、その場しのぎになりやすい一年交代の会長制のまま声明案をつくった外科学会という制度の違いなのでしょうか(外科学会は今年の総会から理事長制度に移行)。もしくは、日本内科学会同様に基本領域の学会が賛意を示さなくてはならなかったなんらかの理由があったのでしょうか。まあ、少なくとも、学会声明は会員の声では無いということです。