福島県立大野病院事件・論告求刑

オーマイニュース 産婦人科医に禁固1年、罰金10万円を求刑 大野病院事件、業務上過失致死と医師法21条違反で

http://www.ohmynews.co.jp/news/20080321/22400

 福島県立大野病院産婦人科で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性が出血多量で死亡し、執刀した同院産婦人科医の加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法21条違反(異状死の届け出義務)に問われた事件で21日、論告求刑があり、検察は「産婦人科医として基礎的な注意義務を怠った執刀医の責任は極めて重い」として、禁固1年、罰金10万円を求刑した。

「抗議声明出した団体の会員の証言は任意性に劣る」

 もう1つ、検察が攻めたのは、弁護側が立てた証人の中立性だ。

 弁護側はこれまでの公判で、周産期医療や胎盤病理の専門家にカルテや麻酔記録、胎盤の顕微標本などの鑑定を依頼し、「加藤医師の医療行為は妥当だった」とする証言を得てきた。

 これに対し、検察側は、「この事件に関しては日本産婦人科学会など多数の学会が抗議声明を出している。それらの団体に所属する医師の証言には、一定方向の力が働いている。結果ありきで任意性に劣る」と主張。

 ・大阪府立母子保健総合医療センター検査科の中山雅弘主任部長が行った鑑定について
 「証人は、わずか4時間弱で、子宮片や顕微標本の観察、標本の写真撮影という多くの作業を行っている。撮影した写真をプリントアウトしたものを元にした鑑定では、写真の資料価値は限定的。試料の吟味に十分な時間が持てないまま、結果を優先させた鑑定に過ぎない」

 ・東北大学の岡村州博教授(周産期医学)が行った鑑定について
 「実際の事実関係に即した鑑定結果とはいえない。証言内容はことさらに被告に肩入れする内容で、被告人の過失を否定する立場から書かれている」

 ・宮崎大学医学部産婦人科の池ノ上克教授が行った証言について
 「胎盤はく離をいったん始めたら完遂するという証言だったが、本件がそれに当てはまるかについては明言していない」

などと、証人1人ひとり発言内容を細かく否定した。

ロハスメディカルブログ 福島県大野病院事件論告求刑公判(1)

http://lohasmedical.jp/blog/2008/03/post_1125

検事
「被告人は産婦人科専門医であり、被害者は健康な29歳の女性であった。被告は癒着胎盤をクーパーを用いないと剥離できないほど癒着していたにもかかわらず、無理に剥離した。この過失は、専門医の基本的な知識に反し、過失は重大である。被告は癒着胎盤を十分に予見しながら、剥離を中止する注意義務に違反し大量出血させた。前回帝王切開の既往がある全前置胎盤では、24%の確率で癒着胎盤が生じることは基本的な医学書に記載されている。胎盤が前回切開創に付着している危険性は予見できた。手術の腹壁切開時に子宮前壁の表面に静脈の怒張がみられており、術前の超音波診断でも胎盤が前回帝王切開創にかかっていることは診断可能であった。

被告人は臍帯を持ち上げた時点で胎盤が剥離せず子宮が内反した時点で胎盤が癒着していることを認識し、無理な胎盤剥離により大量出血によるショックを生じることを認識し、止血操作をはかるとともに直ちに子宮摘出すべきところ、これを怠った。

これは教科書や学会の冊子などに書かれている基本的な知見である。本件手術前に医局の先輩からも、同様の症例で大量出血が生じた症例があることを被告人は聞かされている。被告人は本件手術前や手術中の検査からも被害者の生命の危険が予見可能にもかかわらず、クーパーを使用したら剥離できる、出血しないこともありうるだろうと、安易かつ短絡的な判断により、10分間の長時間にわたって胎盤を剥離し、出血を生じさせた。無理な剥離により、剥離面から次々に湧き出る出血となり、剥離開始15分後には5000 ml、16時10分には10285 ml、最終的には20445 mlもの大量出血を生じさせ、血圧を50弱/30弱まで低下させ、出血性ショックから失血死にまで至らしめた。これは基礎的な注意義務違反であり、その過失は重大である。

被害者は29歳であり、夫と三歳の第一子と暮らし、第二子の誕生を待ちわびていた。家族と共に充実した生活をおくっていた。ほんの短時間、生まれてきた女児と対面し、「ちっちゃな手だね」と述べたその後で、予想もせずその命を奪われ、家族は言葉をかけられないまま、二度と会えないこととなってしまった。子供を残して、何ものにも代え難い命を奪われてしまったのである。予期せぬうち、突然生を断たれた心情は察するにあまりある。それにも関わらず、被告からは遺族に対し示談や慰謝も講じられていない。さらに、公判で自分のとった処置が適切であったと被告が言っている事実からは、期待もできない。被告に対する遺族感情は厳しい。遺族は4時間経過した後で蘇生中であることを知らされ、被害者が失血死した事実を突然突きつけられ、悲痛な生活を送っており厳しい感情を抱いている。被告の発言に衝撃を受けた。亡くなって悲しい気持ちや長男が言葉で母親が死んでしまったことを理解するかと、心痛は察するにあまりある。幼い子を遺して死なざるを得ない母親の気持ちを思い子供を見ると不憫でこの思いは一生続くのであり、被告に重罰をと述べている。また、当時の心境として天国から地獄が当てはまる、来る日もつらい思いと言っている。言い訳をしても一人の人間の命が消えたことは事実であり眠れない日が被害者の家族に続いている。亡くなった命は元に戻らない。長男は「お母さん起きて、サンタさんが来ないよ」、と泣け叫んだと言う。被告は院内外の忠告を無視した、命を奪った被告が許されないと綴っている。遺族の思いは当然である。

被告は自己の責任回避で信用できない供述を行ったことに反省を示していない。過失の重要な事実について、血圧低下の認識、出血量の認識、胎盤の剥離困難、クーパーの使用目的など、捜査時に供述や遺族に対する説明とも変えて、信用できない供述をしているので信用できない。自己の責任を回避するため真摯な反省や謝罪が見られない。医師と患者の信頼関係の確保が強く要請されているのに、我が国の患者の医師への信頼を失わせる、事実を曲げる被告の態度は許し難い。

医師法21条違反について、被告は自身の過失により死なせたという異状死の認識がありながら、届け出を怠った。医師法21条は主旨から、医師が警察に協力すべきである。警察が本件を知ったのが3ヶ月も経った3月31日であり、事故調査が公表され、ミスが新聞で公表されたからである。24時間以内に捜査を開始できず、関係者の記憶の散逸、胎盤などが破棄されており証拠の散逸が起こってしまったが、これは届け出義務の不履行によって生じたことだ。

よって被告には厳正な処罰が必要である。医療は侵襲を伴い生命に影響を与える。産科医療は母児の危険を内包する。よって産科医は高度な注意義務を負う。医師は社会的な信頼、患者の安全を全面的にゆだねられ、重い責任が課されている。被告は安易な判断で医師に対する社会的な信頼をも失わせた。不十分なインフォームド・コンセントしかおこなっておらず、家族は帝王切開の内容を殆ど理解できず、死後の説明も不十分で遅れた。最悪の知らせ方が遺族の悲しみを増した。被告は大量出血も家族に報告できないと言いながら一方で、応援要請に対して応援を依頼する必要はないとしており不可解である。重い医師としての責任認識が甚だ乏しいとしか言いようがない。被告は地域の社会的な重責を担ってきたとしても、過失は重大である。

よって、求刑は、禁固一年、罰金10万円 とする。 」

アサヒ.com 帝王切開手術中死亡、産科医師に禁固1年求刑 福島地裁

http://www.asahi.com/national/update/0321/TKY200803210335.html

読売新聞 帝王切開手術ミスで死亡、産婦人科医に禁固1年求刑…福島

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080321-OYT1T00534.htm?from=main3

福島民友ニュース 大野病院医療事件、加藤被告に禁固1年求刑

http://www.minyu-net.com/news/news/0321/news14.html

福島中央テレビ 大野病院の裁判 禁固1年罰金10万円求刑

http://www.fct.co.jp/news/#200803215192527

NHK 県立大野病院の医師に求刑

http://www.nhk.or.jp/fukushima/lnews/01.html

時事通信社 産科医に禁固1年求刑=検察「過失は重大」−帝王切開女性死亡・福島地裁

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008032100848

東京新聞 産科医に禁固1年求刑 福島県立病院の患者死亡

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008032101000900.html

 刑が確定したわけではありませんが、こうした求刑が行われること自体に、絶望を感じてしまいます。また、産科学の専門家たちの証言を片っ端から否定しているということは、すなわち、現在の我が国の産科医療そのものを否定しているとしか思えません。
 その一方で、検察側は、産科が専門ではない、新潟大学の田中憲一教授を証人にたてています。産科の専門家の意見を信用できないとし、専門ではない一人の医師の証言のみを信用する根拠というのはいったいなんなのでしょうか。