救急車のドライバーに睨まれました

 病院で働いていると、医師に直接言えない不満を受付や看護師などにぶつける患者さんというのは少なくありません。そういう意味で、医師には確かに守られている部分というのはあると思います。昨今は、そうした不満がダイレクトに医師の耳に入るようになったというだけで、かつてに比べて苦情自体が激増したということではないのかも知れません。
 そうした苦情が、我々が反省して然るべきものであれば誠意を持ってお詫びするべきだと思いますが、筋違いのものであれば、毅然とした態度で突っぱねるべきだと思います。サービス業においては、無茶なクレームと思えるようなものに対しても、「お客様」の気持ちを十二分に汲み取った上で、ゆっくり時間をかけて話し合い、最終的に理解し合えることで、「クレーマー」から「お得意様」へとなって頂くということが大切だとか言われているようです。まあ、別にこれが必ずしも間違いだとは思いません。
 病院も大切な「患者様」をお迎えする場所であるから、そうしたサービス業の基本とも言えるマナーを学ぶべきだとして、講師を招いて「接遇講習」なんていうのも行われていたりします。もちろん、その背景には、基本的な対人マナーのない医師の存在があることは否定しません。もちろん、患者さんという一人の人間に対して、相応の礼儀は求められます。しかし、「お客様は神様です」なんて謙るサービス業と、医療という専門職を同列に扱う必要はないと考えています。

第三次産業

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20040718#p2

 医者はサービス業か、なんていう議論はだいぶ前からされつくした感があるけれど、それにしては皆が納得する結論というものは出ていない気がします。

 しかし、こと医療に関しては、医者にかかるのが乗り気でない人と、その患者を診るのが正直しんどい医者という関係が成立してしまうことがあります。このアブノーマルな関係が、他の職種と決定的に違う部分なのです。もちろん医者の技術や態度に問題がある場合も多いでしょうが、患者さんの側に問題があることも考えられます。患者さんの側とすれば、先に述べたように、「ふってわいた」病気のために「やむを得ず」病院に来ているのであって、「お金を払って」病院にかかるのだから、医者はそれ相応の対応をすべきだと考えます。

 医者は、応召義務で原則患者さんを断れませんし、病気に苦しんでいる人には真摯に対応しようとします。いくら丸一日働いたあとの当直でも、急患にはなんとか対応します。昼間混んでいるからと、わざわざ夜中に定期の薬をもらいにくるような人や、医者の説明や治療方針にはほとんど耳を貸さず、自分の思うがままの「治療」を求めてくるような人というのは、僕らにとって正直やっかいな方々です。僕らは、お金さえもらえば、患者さんの言うがままに薬を処方し、点滴をして、検査をするというわけではなくて、あくまで、医学的見地から必要なことをすすめるのです。人対人の関係ですから、サービス業的なセンスも必要でしょうけれど、僕らはあくまで専門職で、にこやかな笑顔よりは確かな診断を優先すべき職種です。

 かつて、医師が父権を持ったパターナリズムからの脱却として、「チーム医療」や「患者の権利」などが叫ばれ、「医師と患者は対等な関係」だとされました。「対等」なのであれば、それはお互いを尊重しあうことであり、診察に便利な背もたれのない椅子を廃して、患者さんにも背もたれ付きの椅子に座ってもらうとか、自分の希望を強く主張する「患者様」の言うとおりの検査や投薬を行うサービス業ということでは無いはずです。なんだかおかしな方向へ流れているなと思ったのです。
 医師が、必ずしも患者さんの希望に沿わない専門的な意見を述べたとして、その苦情に病院職員が謝罪したとしましょう。デパートのお客様相談室はそれでいいかも知れません。しかし、自分が正しい医療をしたと思っているのであれば、医師はそうした謝罪を不快に思うでしょう。もちろん、医師の言葉遣いや態度といった細かいことで、同じ内容を言うにしても、患者さんに納得して頂ける道が無いとは言いません。そういった点については、我々は反省すべき機会を頂いたのだと思います。しかし正直なところ、誠心誠意説明しても全く理解せずに怒り出すような人もいるし、再三検査の必要性を説明しても同意してもらえなかったのに、その後病状が進展したとして訴えられたりするのです。挙げ句の果て、他の業種の契約なら考えられない話ですが、いくら同意書や説明書に健康や生命への影響の可能性が記載されていたとしても、「その重大性をもっとわかりやすく説明すべきだった」なんていう判決が出たりしているのです。

実際に僕らが外来でどんなやりとりをしているのか

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060223#p1

「それは困ります。副作用のない薬をください」

「副作用のない薬というのは存在しないんですよね。もし、副作用が心配でしたら、薬は無しでかまいませんよ」

「化膿するかもしれないですよね?」

「そうですね。人の体が相手ですから、傷がどうなるとも確実なことは言えません。ただ、最初に申し上げた通り、比較的綺麗な傷でしたし、よく洗浄し、消毒しましたから、感染の可能性は低いと思います。どうされますか?」

「医者なんだから、決めてくださいよ」

「じゃあ、薬はやめにしましょうか」

「膿まないんですね。膿んだら責任とってくださいよ」

「そればかりは、機械を直しているわけではないので、確実な保証はできません」

「なんだと、いい加減なことしやがって」

 医師と患者は対等だとは思います。人間として対等であるからこそ、患者さんは完全に自由では無いと思います。お金を払えば好きな薬がもらえるということでは無いのだということを、理解して頂きたいのです。

横浜市民の声

救急車への苦情

http://cgi.city.yokohama.jp/shimin/kouchou/search/data/19004861.html

<投稿要旨>
駅近くの「駅東口入口」の交差点を渡っていたところ救急車が着ましたが、話に夢中になって、サイレンを認識せずに横断歩道を渡っていました。クラクションが鳴り、「はっ」と気づき走って避けましたが、ドライバーは私を睨むようにして通り過ぎていきました。すごく感じが悪いです。

緊急自動車を避けなければいけないのは十分に知っていますが、マイクで注意を促さず、クラクションを鳴らすとはどういうことなのでしょうか。緊急であることを差し引いても人間としてのモラルが低いです。マイクが壊れていたりして使えないというならば、窓を開けて声で注意を促すなど冷静な判断で機転を利かせる必要があるのではないでしょうか。横浜市としてどのような指導をされているのかお伺いしたいです。

とともに職員のモラルの向上への指導に期待します。

<回答>
救急車の緊急走行については、その業務の特殊性から、法令の規定により通行方法等について優先や特例を受けておりますが、その反面、資格、要件、注意義務等についての制約が設けられております。

このため、常に優先通行権の過信を慎み、緊急走行する自らに与えられた権利と制約を十分に理解し、運行中の事故防止の万全を図るよう指導を行なっております。

緊急を要する患者さんを搬送するという運転中のこととは言え、不快感を与えたことについてはお詫び申し上げます。

今後も引き続き、救急技術の向上と併せ、安全運転、緊急自動車の適切な走行等に関する職員研修・指導を徹底し、市民の皆様の緊急走行や救急業務についてのご理解を得て参りたいと考えております。

救急車のサイレン音がうるさいので改善してください

http://cgi.city.yokohama.jp/shimin/kouchou/search/data/20002621.html

<投稿要旨>
病院の隣に住んでいます。小さな子どもがいますが、夜間や朝方、救急車のサイレン、特に交差点に入るとけたたましく鳴らすサイレンのせいで、このところ毎日泣きながら起きてしまいます。

せめて夜間の間はサイレン音をなくすかボリュームをおとす。または交差点でのサイレンや放送はやめるなど、配慮をお願いします。

<回答>
サイレンについてのご要望ですが、救急車は緊急に医療機関へ搬送する必要のある傷病者の方を収容して走行しており、救急現場や医療機関へ向け緊急走行する場合は、歩行者や自動車が容易に救急車を識別し、安全に走行できるよう、法令(道路交通法施行令第14条)により赤色灯を点灯し、サイレンを吹鳴することが義務づけられています。

横浜市では、住宅密集地や交通量の少ない夜間などは、サイレンを低音量に切り替え、周囲の環境に極力配慮するように救急隊に指導しております。しかし、交差点や幹線道路においては、救急車が緊急車両として赤信号を通行する必要があり、救急車に同乗している患者様を安全に病院まで搬送するためにはサイレンを止めることは出来ません。

今後も、住宅密集地や交通量の少ない夜間などのサイレンの使用方法について救急隊には指導してまいりますので、何とぞご理解をいただけますようお願い申し上げます。

 これらなんか言うまでも無いことだけれど、完全に間違っちゃたんじゃないかなあ。これを謝罪してしまうっていうのは、救急隊員の心を相当折ってしまうんじゃないでしょうか。むしろこんな要望を出してくる市民に逆に心を入れ替えて頂き、謝罪して頂くというのが行政の責務だと思うんですけれども。