「鉛筆」-0382-

 物心ついたときには、裏が白い広告と、六角形の鉛筆は僕のお気に入りで、とにかく何かを表現していたのです。文字通り身を削って力を発揮する鉛筆をみて、全ては永遠じゃないということをなんとなく感じながら、僕には定冠詞のついた、ザ・鉛筆という存在がとても大切で、短くなっても容易に彼を手放さなかったことも良く覚えています。

 確か高校入試の時に買ったものですが、プラスチックのケースに消しゴムと一緒に鉛筆の入ったセットが、未だに手元に残っています。高校生の時には、もっぱらシャープペンシルのお世話になったし、大学に入ってからは、ほとんどボールペンに頼りきりで、鉛を紙になすりつける筆記用具はほとんど使わなくなりました。縦書きということもほとんどしないので、右手の腹を真っ黒にすることもなくなりました。

 そんなわけで、まだそれほど短くならずに残っていた鉛筆は今、図らずも医師国家試験の模擬テストのマークシートを塗るのに使われています。右手に握った鉛筆をふとみると、その中の一本に、サイの目が振ってあるものがありました。買った当時の模試や入試で、分からない問題にぶちあたったときに、そういえばサイの目に頼ったような記憶もあります。今もその心境はあまり変わっていませんが、「禁忌肢」という爆弾と、「無知は罪」という医学生としてのプライドが、そのサイコロを再び振らせることは、今のところ無いようです。