「人事委員会」-0476-

 人事委員会という仕組みがあるのです。大学医局を中心とした病院人事には不可解なことも多いのですが、どこそこの病院のどのポストが何人、といった具合に人事権を握っているのは大学医局であって、僕らは、医局を離れない限りはその人事に乗っかってどこかの病院に勤務しています。去年の4月に、僕は確かに日本赤十字社に就職して、赤十字病院の外科医師になったのですが、その就職にゴーサインを出しているのは医局であって、別段書類を交わした訳ではないその場所が、上級意志決定機関なのです。そんなわけで、3月一杯で、赤十字病院を退職することも決まっています。

 大学院生が卒業したりしなかったり、退局者が出てみたり、来年の新人を目算してみたりしながら、僕らの人事は振り回され、ある小児外科の助手枠と、大学・麻酔科・ICUのローテーションのどちらかが僕の来年度の生き方になるということまでは決まっているみたいです。一般外科医を目指して外科医局へ入ったのですが、正直、小児外科だけをやるというのは、あまり興味を覚えられないでいます。でも、誰かは行かなくては行けない場所なんですよね。かつて、同期の女医が、小児外科をやりたくて僕より先に入局を決めたのですが、最近は、どうもそういう意向でもないみたいです。当然、僕も今後働きながら、目指すものが変わる可能性はあるのです。10年後に僕が何を目指しているのかなんて、そんなことは10年後にしかわからないことで、現時点で興味がある分野にすすめる道で勤務したいと思うのです。

 本当の希望は、臨床症例がたくさんあって、若手にも積極的に手術などをさせてくれる病院なのですが、麻酔科やICUの勤務、全身管理を学ぶことも重要なことだとは思うし、麻酔・ICUのローテーションという道は、まあ、なんとなく納得しています。いろんなおかしなシステムがあって、麻酔科研修で大学の外へ出る3ヶ月の僕の身分は「無職」になるみたいです。医局長に「保険とかどうするんですか」と尋ねたところ、「病気にならない。あるいは、国保に入れ」との暖かいお返事。つくづく変な職種です。

 純粋に金になる仕事を追いかければ、医師という資格だけが必要であるような仕事がたくさんあって、献血センターでの問診とか、平和な老人病院の当直とか、実質頭も体も使わないような仕事のほうが実入りが良かったりする一方、救急車がガンガン入って、手術しまくりの病院での給料は今ひとつで、時間外が計算されなかったりもするのですが、僕らの就職先として人気が高いのは後者だという、なんとも不思議な世界なのです。

 我が国では、どうもものに金を払うのは得意だけれど、技術に金を払うというような考えは未熟に思えます。金、金と、金が全てではないけれど一部ではあって、純粋にやる気だけで薄給・激務を選んでいる人が多いということに甘えていても、いつかは崩壊してしまいます。それなりの能力には、少なくとも資本主義社会なのであれば、それなりの賃金で評価しなくてはいけないと思います。手間ばかりかかって、薬代でも儲からない小児科領域だとか、崩壊寸前というより、事実上崩壊している分野が既にあるのです。やはり優秀な人材を求めるならば、善意だけに甘えずに、正当な評価を。評価の手段として賃金を論じることをタブー視するのはおかしいと思います。「聖職」以外の職種ならば、金を儲けることは純粋に評価されるはずです。どこかの国では、警察官の賃金を上げたとたん、治安が改善したという話をききました。

 来週も人事委員会、医局会があるらしいです。そろそろ僕の来年度の予定が決まるでしょうか。引っ越し先も探さないといけません。