「イン・ラスベガス」-0510-

 2001/9/11のテロはもちろん衝撃だったけれど、僕にとってはイラク戦争も衝撃で、イラク人一人の命がアメリカ人一人の命より軽いというわけではないことくらい知っているのです。全ての犠牲者のご冥福をお祈り致します。以前僕がアメリカに行ったのは2000年の3月のことで、その時はまだ、グラウンド・ゼロなんて呼ばれる地区はなくて、そこには有名なツインタワーが建っていたのでした。

 以前は、貧乏性というか何というか、欲張ってたくさんの場所をまわる旅行を良しとしていて、当時の旅行もニューヨーク、ラスベガスとアメリカ大陸を横断するようなもので、ふたを開ければそれぞれの滞在時間は決して長くはなく、移動時間ばっかりの旅になるのでした。去年の今頃は、バルセロナくんだりまで出かけていって、何を思ったか、二晩連続でカジノいったりしてしまったのです。観光客なんていなくて、スペイン語が飛び交うカジノは、レジャー化したラスベガスのそれとは全く異なっていましたが、僕は心底カジノという場所の空気が大好きで、その多様な人間模様とか、社会から隔離された空間のイメージとか、決して地球には優しくない状態とか、そういうこと全てを楽しむのです。

 ICUで当直しているとき、だいぶヒマな日があって、なんだかわからないけどラスベガスの話題になり、それに大盛り上がりした小児科の後輩が、「夏休みは絶対ラスベガス行く」なんて言っていたのです。結局その後輩は、奥さんの意向もあり、ラスベガスには行けなかったようですが、僕のラスベガス熱も盛り上がってしまって、気付けばラスベガス旅行を手配していたのでした。

 少し遅めの夏休みですが、実はオンシーズンの休みよりも、旅行の相場が下がっていたりして、かなりお得感のある時期なのです。同じような時期にみんなが休みというわけではないので、旅を共にする人が捜しにくいという問題はあるのですが、最近は一人旅の楽しさも知ったので、今回も一人で繰り出しました。

 前回ラスベガスに滞在した時は、その短い時間を縫って、グランドキャニオンへ足をのばしたりもしたので、日本ではなかなかみられないショーを観に行くとか、長時間カジノに籠もるとか、そういうことがなかなかできなかったので、前回やりはぐったことを片っ端からやってみることにしたのです。

 シルク・ドゥ・ソレイユの水中アクロバット「O」や、非常にアメリカ的な演出の「Blueman group」など、なかなか入手困難といわれるチケットも、運良くネットでうまく手配できたので、ヴァカンスをラスベガスで楽しむカップルや家族連れに混じっておおいに楽しみ、例によって知らない人にでも、遠慮無くいろんな質問を浴びせかけてくるアメリカ人たちといろんな会話しながら、世界最高峰といわれる舞台に触れるのです。瞬時に水位の変わるプールとか、水が降ってくる天井とか、会場全体を覆う紙とか、それぞれの会場が、ある特定の舞台のためにつくられた会場で、また、観客への絡み方も、日本でやったら怒られそうなくらいの激しさだったり、なかなか良いものをみせて頂きました。普通にスタンディングオベーションになっちゃったりとか。

 ラスベガスという、砂漠の真ん中に人工的につくった街は、絶対地球に優しくなんかない街で、空港からストリップと呼ばれるメイン通りに入ると、ピラミッドや自由の女神凱旋門が建ち並び、その合間をジェットコースターが走っていたり、海賊船が構えていたり、いうなれば街全体がテーマパーク。以前の旅行では、ストラトスフィアタワーのビッグショットというフリーフォールを体験していたのですが、今回、絶叫マシンのハシゴも試みました。ニューヨーク・ニューヨークのコースター、サハラのコースター、ストラトスフィアのコースターとフリーフォールと、乗ってみたかったものを一通り試してみました。ホテル巡りも兼ねていて、もちろんカジノも見物しながら、いろんなテーマホテルを楽しんでみました。

 僕が今回滞在したのは、モンテカルロというホテルで、今回は、カジノにもどっぷりはまるつもりで、預金通帳をマイナスにしてまでたくさんドルを用意していったので、早速メンバーズカードをつくりました。モンテカルロは、マンダレイベイグループのホテルで、そのグループ共通のポイントプログラム「ワンクラブ」というのが存在していました。かつては、あまりおおっぴらでは無かった「コンプ」と呼ばれる顧客サービスがあります。これは、カジノでたくさん金を使う良客に、食事とか部屋とか飛行機とかを提供し、客をつかむというホテルの戦略で、これはその客の勝ち負けとは特に関係無くて、例えば、一回5ドルずつ使ってトータルで1000ドル負けた客よりも、一回50ドルずつ使って1000ドル勝った客のほうが上客なんだそうです。勝ち負けはその時々のことであって、その客がカジノにどういう金の使い方をするのか、ということが重要なんだそうです。

 だいたいどこのホテルでも、入会申込書を書いて、パスポートと一緒にみせると、即時無料で発行してくれて、ホテル内で様々なサービスが受けられます。最終的に、1000ポイントくらいためたカードを持っていって、どういうサービスが受けられるのかきいてみたところ、商品と引き替えるか、25ドルのキャッシュバックが可能だと言われて、結局、25ドル貰ってきたのです。売店では、みせるだけで10%引きのサービスが受けられたし、どこのホテルも、ホテルの宿泊とか食事とかアトラクションで儲けるつもりはあまりなくて、それを客引きとし、あくまでカジノで儲けたいという姿勢がありありと伺えるのです。カジノで遊ぶ客には、いろいろ優しいところです。

 全部すったらまたおとなしく働こうと、日本から3000ドル近くのキャッシュとチェックを持ち込んだ僕ですが、なんだかんだ言って、あまり高額を一度にかけることをためらってしまうのでした。まだ普通の感覚を持っている自分に、少し安心もしましたけど。でも、一時期1000ドル以上勝っていて、その勝ち分ならすっても惜しくないと、一気に500ドルくらいかけてブラックジャックやって負けたりと、日常生活から考えると異常なことしてましたが。

 ブラックジャックとかルーレットなどは、大負けもしないかもしれませんが、なかなか大勝ちするのが難しいゲームで、やはり数十億円稼げるような夢を与えてくれるのは、ネットワークのどこかで当たりが出るまでひたすら金額を上乗せしていくという「メガバックス」に代表されるようなスロットマシンです。ただ、すってしまう確率も高いので、そこに延々と金を注ぎ込むのも面白くないので、テーブルゲームで少し勝てばスロットを回し、というようなことをやっていました。結果、元手の無い前回のラスベガスでは体験できなかった、メダルの払い出しに係員を呼ぶという行為を三度もできました。同じ1ドルマシンで、400ドルの当たりと600ドルの当たり一回ずつと、25セントマシンで1000枚、250ドルの当たりを一回。野次馬たちが、「何枚出たの?」とか「ビューティフル」とか言って絡んでくるのです。

 ショーと絶叫マシンと食事の時間以外、ほとんど睡眠もとらずカジノに籠もっていた僕の、トータルの勝ち分は400ドルくらいで、持っていった金をいろいろ使ったけど、減らさないで帰国できた、という成果でした。ゲームセンターでそれだけ長時間遊べば何万円かかかりそうなところですが、タダでいろんなゲームができたと思うと、なかなか良い結果でした。さらにキャッシュバックもあったわけですし。

 ギャンブル狂とか、そういう人じゃなくても、ラスベガスは十分楽しめると思うのです。ラスベガスのカジノはだいぶ開放的で、バルセロナのそれとはかなり雰囲気が違います。バルセロナのカジノは、初めての人にはおすすめしませんが、ラスベガスならば楽しめるかも知れません。以前、知人がネパールのカジノの話をしていたのを興味深くきいたのを思い出しました。世界のいろんなところにカジノがあって、おそらくそこには、そこにしかない空気が漂っていると思うのです。先ほど述べたように、僕はカジノという空気が大好きです。いずれ、世界のカジノ巡りなんてできたら素敵だと思います。