歩み寄り

 ここ数日ネガティブなことばかり書いてしまいましたが、基本的に、困ったいる人を僕の医療行為で助けることができるのであれば、これ以上の喜びはないという思いは、医師を志した当初から変わってはいません。救急外来を軽傷者が受診するのも、そうして臆せず病院に飛び込んでもらえる環境を整えることで、我慢して手遅れになるような症例を減らすことができるという考えも原則は変わりません。
 しかし、こうして、僕らが単に「当直料」だとか「名誉」だとか、そんな欲の関係のないところで、自分の眠る時間を削って救急医療に携わっているということを、なんとなく知っていてもらいたいのです。患者は弱者であり、受診したいときに受診するのは当然の権利だ、といってやって来られるのはやっぱり辛いのです。
 権利をふりかざしてやって来るのではなく、「時間外にすみません、ありがとう」という意識があれば、医者の側も、仮に3日前からの慢性的な症状なので、休みの日の真夜中に叩き起こされたとしても、「まあ、不安になってしまったのだから、仕方がないのかもしれない」と思えるかも知れません。単に、そういうことなのです。
 そういえば、「給食費を払っているんだから、うちの子に『いただきます』といわせないで欲しい」なんていう親が増えているそうですが、やっぱり何かはき違えていると思うんですよね。「医者が急患を診るのは当たり前だし、診察費だって払っているのだから、とっとと診ろ」という患者と、「本当はお金を払ってでも休みたいのに、身を削って当直しているんだ。なんで3日前のケガを、よりによって真夜中に検査しろって受診して大威張りされなきゃいけないんだ」と思う医者の間に、信頼関係も何もあったものではありません。