先進諸外国の医療、追記

 追記といいますか、コメント欄への返答です。
 まず、世間でどう考えられているかは知りませんが、僕は日本の医療というのは世界最高レベルにあると考えています。また、日本では、その最高レベルの医療に対し、原則アクセスフリーです。また、低所得者であっても、国民皆保険のもとで、原則平等な医療が提供されるという夢のシステムを実現しているほぼ唯一の国であると思っています。少なくとも、僕は自分の体に何かおきたら、日本で医療を受けたいと思います。
 このような夢のシステムを是非維持して頂きたいと思いますし、そのために、我々医師たちが「ある程度の」自己犠牲を払っても良いとは考えています。ただ、このレベルを維持し、今後さらに発達する医療にも対応し、それを国民全てに平等に行使するためには、医療費も医者も足りないというのは明白だと思います。別に、医者の給料を上げろとか、待遇を良くしろという話が我々の主張の本質なのではありません。良い医療を維持するのであれば、医療費を削るなんてもっての他であり、きちんと金を使い、マンパワーも確保せよと言っているのです。必要な予算を削り、マンパワーの補充もなく、「ある程度」を超えた医者の自己犠牲のみで、医療レベルを維持しようと思っても、それは無理です。そうして、「ある程度」を超えてしまったことにより、今まで我慢していた医師たちが、ようやく声をあげはじめたというだけの話です。
 マスコミなどの報道が中立とは感じられないのは、以前から綴っている通りです。また、「先進国」という表現には相当の皮肉をこめていますし、少なくとも医療において、アメリカ、イギリス、カナダが「先進国」であるとは思っていないというのは、コメント欄で発言を頂いている通りです。
 また、現行の医療制度を医者たちがつくったわけでもありませんし、本来、そういったシステムを作るのは国の責任です。臨床医の多くは、本来、医療にのみ専念していたいと考えます。制度作りのために臨床医になったわけではありません。ただ、現場にしかわからないことに関して、国に訴えかけることは必要だとは思います。
 そして、具体的に国に提言せよというのであれば、「金を出せ」「人を増やせ」というしかありません。無駄を省け、効率化を、といいますが、具体的にどうしろと言うのでしょうか、むしろそちらを教えて頂きたいのです。敢えて無駄をあげるとすれば、医学的には不要と考えても、患者さんの強い希望のもとに行われる検査とか、投薬とか、時間外の受診などでしょうか。これらについては、実費をとるしかないのではないでしょうか。
 ただ、結果論として医者が責められる現状ですから、ほとんど症状がない患者がレントゲン検査を強く希望し、医者が渋ったとして、結果として骨折なんて発見されようものなら大騒ぎになることは想像に難くありません。而して、医者の多くは、患者さんの要求に対し、強く否定するということはしにくくなります。本来なら、少し様子を見て、患部の状態の変化とか、自覚症状などの総合的な情報から、徐々に検査を追加しておくべきところなのだと思います。転んで頭を打ったからと言って、ピンピンしている患者さんの頭部CTをまるでルーチンのように撮影する国なんて、多分日本だけだと思います。ピンピンしている人の中に、わずかな確率で出血や骨折を伴う症例があることは事実ですが、それはその後の症状の変化によって気付かれるものであって、その結果を持って、最初に検査しなかったのは「診断ミスだ」ということには当たらないと思うのです。しかし、これは日本ではほとんど理解されず、場合によっては刑事罰までちらついてくるのです。片っ端から検査すれば、診察で気付かれないことまで見つかるかも知れませんが、それは非現実的です。でも、その非現実的なことが、医療の現場に要求されています。少なくとも、診療時間内のアクセスフリーは実現されているのに、それは既に当たり前としてとらえられ、時間外においても、常に専門医に診察を受け、完全な検査・治療をせよと。
 患者さん側の要求がそういうところにあり、それを実現できないにしても、近いところに維持するには、当然それなりのお金も人も必要なのに、国はそれを削っています。そうして予算を削ったり、患者さんの自己負担を増やしたりすることに関して、あたかも国は、医者の努力が足りないせいであるといったように振る舞っています。マスコミもそれを煽っているとしか考えられません。人と人が対するのですから、医者側の意識改革だけというだけでなく、患者さんからの歩み寄りも必要なのです。