ネットの匿名性

レジデント初期研修用資料
http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2006/08/blog.html

どんなに気をつけたところで、ネット上で匿名を保つことは不可能だ。

ネット上で、匿名の医師が当り障りのない病院話を書く分には、たぶん大きな問題になることはないはず。

ところが、その医師が「当たり障りのある」話題を書きはじめて、その人の実名や勤務先などが割れてしまったら、これは明らかに守秘義務違反に問われてしまう。

 まあ、当たり前の話だし、一昔前、まだネットの敷居が若干高かった頃は、なんとなくバランスを保っていたような気はします。あまりにも無防備にネットに飛び込んできて、「匿名性」を固く信じているような人が増えているのだと思います。そして、指摘されているように、自分自身がいかに匿名を守ろうと考えても、脇の甘い知り合いとネット上で繋がることで、容易に綻びます。

ほんのわずかなスキルがあれば、ネット上の人物を特定することは極めて難しくなるのだけれど、そのわずかな知識すらない人があまりにも多く、また自分だけ気をつけていても、回りから匿名の壁を破られることもまた多い。

 まあ僕は、当初大学に関連の強い場所でサイトをはじめて、そのまま引きずっている状態なので、スキル以前に相当脇の甘いスタートでした。一応現在は、あまりにも分かりやすい直接的なリンクを避けたり、アーカイブやキャッシュに直接的な情報が残っていないことを確認したりはしています。しかし、特定の地域でしか起こりえないことなどを、ある程度開き直って無防備で書いているので、僕を特定しようと思えば、それほど難しくないと想います。同じハンドルで長くネット上を彷徨えば、個人を特定する情報もどんどん増えていくし、脇の甘い繋がりもできていきます。

一番安全なのは、なんといっても危ないことをネットに書かないこと。

匿名で語れる場所なんかない。周囲の人は、自分が何か書いていることを全部知っていると言う前提で記事を書いて、となりの人が自分の日記を読んでも、絶対に何もおきないと確信できること以外、ネット上に公開されるページには書かないことだ。

 一応気をつけてはいますが、時に強い憤りや誰かを批判する発言をすることがあります。その対象が大きいものか、あるいは曖昧で、実際に直接声を届けることが困難である場合は、まあ、匿名にしろ実名にしろネットで何か勝手に言っていても問題ないでしょう。問題になるのは、その批判の対象が、身近な特定の誰かだった場合ですよね。ネットの誰かに喧嘩を売るのは、匿名対匿名の単なるネットバトルですし。
 自分の匿名性が保たれていれば、その批判も単なる誰かへの思いになるけれど、どこかの匿名性が崩れることで、そこに書かれた人物相関が一気にはっきりしてしまうことになります。まあ、僕は対象がぼやけるような文体を工夫はしていますが、最悪バレたとしても、それほど困らないことだけを書いているつもりではいます。第三者がみたらそうでもないんでしょうけれど。例えば職場での不満など、実際に直接ぶつけていることが多いです。時に、その不満をより具体的に訴えるため、ウェブ上よりもむしろ過激になっていることもあります。絶対に言えないことは結局書いていないように思います。ただ、自分の匿名性があまりにも崩れた状態で、あるはっきりした個人を批判することは、一方的な侮蔑やバッシングになりかねないので、それは気をつけなくてはいけないと思います。あとは、守秘義務違反は絶対に避けなくてはなりません。自分が「匿名」だと思っていても、それが脆いものだということを知っていなくてはなりません。
 その認識が甘かったのが、かつて、ネットで患者を中傷したとして報道され、なんらかの処分も受けたらしい耳鼻科の女医さんです。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20050115#p1

耳鼻咽喉科担当の女性医師が、個人ホームページの「日記」に診療内容や手術の様子を公開し、「頭悪い」「二度と来るな」などと患者を中傷する書き込みを繰り返していたことが十三日分かった。指摘を受けた医師は日記を削除したが、病院側は医師の処分も含めて対応を検討している。

かつても書いたように、件の女医さんを擁護するつもりは全くありません。ただ、この方のサイト、「匿名」サイトだったんですよね。おそらく相当に脇が甘く、その匿名性は崩れてしまったようです。もちろん、匿名だったら患者を中傷してよいというわけではないのですが、もともと、気付いてしまった人以外にとっては、その中傷の対象はどこかの誰かだったわけです。しかし、新聞などで病院を特定した上で、匿名で書いているときですら問題であった内容の文章を掲載するというのはどういうことなんだろうかと思います。同様の理由で、その問題となった文章を公開しながら、医師の個人情報を探っていく姿勢にも賛成しかねます。
 正直、病院ではいろんなことがありますので、僕も患者さんに対して、口には出せないような感情を抱いてしまうことはあります。感情を抱いてしまう部分までは弱い人間として仕方が無いと思います。ただそれをじっとしまい込むのと、口に出してしまうのでは全く意味が異なります。基本的に、公序良俗に反するようなことを、公共の場で言うことはよろしくないのです。
 患者さんに対する感情、特に夜間のコンビニ受診者に対する思いなどは、上品な言葉は使っていても、僕も件の女医さんと紙一重のこと書いているとも思います。まあ、あまり具体的な事例を綴ることはなく、あくまで相当に一般化して書いていますけれど。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060508#p1

 犯罪を起こしたり、あるいはそれに巻き込まれてしまったりした時に、その人の書いていたウェブ日記とかブログとかいったテキストがマスコミによって公開されることがよくありますよね。これが、明らかに実名で公開されていたものであれば、構わないと思います。しかし、匿名で書いていたようなものまで、勝手に個人を特定してしまって公開するというのを、みなさんどうとらえているのでしょうか。

 以前書いた、これも嫌なんですよね。このサイトはあくまで「ザウエル」が書いているのです。
 まあ、実際に、自分の医局の関係者も含め、相当な範囲にサイトバレしていることは承知しています。それを承知した上で、あくまで「匿名」で語ることにこだわります。だいぶ前から、サイトには以下のような「お願い」をのせています。あくまで「お願い」にすぎないのですけれど。

 ザウエルという人物がどこの誰だか分かる人もいるでしょうが、敢えて匿名でサイトを運営しているという意味を考えて欲しいのです。
 職務上知り得た秘密というわけでないにしろ、日常生活を描く上で、あるモデルが語られます。僕が本名で文を綴ったとき、そのモデルもまた、特定され得るかも知れません。僕は匿名で、さらに、主語と目的語が曖昧になるような微妙な文体を工夫して綴っているつもりで、些細なことに関しても、モデルがなるべく特定されない書き方を目指しています。
 なんというか、僕がザウエルという別の名前を名乗って、病院とも学校とも関係のないところで勝手なことを言っているという、そういうことが重要だと思っています。

 しかし、僕の大嫌いなあのサイトも、本人がどう思っているかは知らないけれど個人を特定できる情報を大放出し続けているし、僕が昔からみていたあのサイトの方は、おそらく、僕が実生活で接点のあったあの人だし…お互いそっとしておきましょう。