医師等資格確認検索

http://licenseif.mhlw.go.jp/search/
 先日、個人情報保護の観点から、医師国家試験の合格者氏名は公表されませんでしたが、その一方で、4/1正午より、厚生労働省のウェブサイト上で「医師等資格確認検索」が稼働しています。

関連過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20070330#p2
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060329#p2
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20051201#p2
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20051112#p3
 ちなみに、従来は報道機関に医師国家試験合格者の漢字氏名が公表されていましたが、一昨年はカタカナ氏名の公表、昨年より受験地と受験番号のみの公表になっています。
 医籍検索を開始した理由として、厚生労働省は、2005年12月の「医師等の行政処分のあり方等に関する検討会」の報告書において、

・医師等でない者からの医療の提供等を防止し、国民の生命・健康を保護する観点から、氏名、性別、登録年月日により医師等の資格確認を行うことを可能にすることが適当であること。その際、電話照会だけではなく、ホームページ上で資格確認を行うことを可能にすることが適当であること。

・医業等を行うことを禁止されている医師等からの医療の提供を防止する等の観点から、医師等の資格確認の際、行政処分の情報を、医業停止処分等については処分終了時又は再教育修了時の遅い方までの間、戒告処分については再教育修了時までの間、提供することが適当であること。

としていますが、既にウェブ上の各所で指摘されているように、システムはトラブルだらけの模様です。
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_05f5.html
 ↑こちらなどでも触れられているように、物故者がかなりの数ヒットしてしまい、「鬼籍」検索などと揶揄されているのです。これは本来、医籍に登録している者が死亡した場合、抹消の手続きを行うことが必要とされているのに、それがなされていないという背景があるにはあります。しかし何しろ、医籍に登録された本人が亡くなってしまっているので、その届け出がスムーズになされるとは考えにくく、システムとしては相当杜撰です。死亡届や戸籍と連動させればすむ話なのですが、現在までそうはなっていません。
 最初、検索ページをみたときに、「次のような医師は検索できません」として、

(3)国内最高齢者より高齢の医師等の登録者

(原文では、○の中に3。省庁のサイトで機種依存文字を用いるというのもどうなんだろう?)
と書いてあったのが、最初ピンと来ませんでした。これは、医籍上、当然物故者があることは承知していて、流石に戸籍にある最高齢を超える医籍登録者は削除していたということだったようです。
 実際に、私の知り合いの亡くなった医師も、ほとんどが検索可能でした。その他、ウェブ上の情報を信じるならば、性別が間違って登録されている例や、結婚などによる性の変更が反映されていない例などがあるようです。しかし、一般の方が、「偽医者」探しのためにこのシステムを使うのだとすれば、正しく登録されていない医師たちにとっては相当迷惑な話です。
 医籍に物故者が大量に登録されているということは、図らずも厚生労働省がこうしてネット検索を始めなければ我々が知ることが難しかった事実です。ネット上では、そもそも「医師は足りている」の根拠に、こうして物故者が大量に含まれる医籍のデータが用いられているのではないかという憶測がされています。
 ただ、本来、日本に居住する医師は、2年に1度12月31日現在における住所地、従業地等、医師法で規定されている事項について、届け出ることが義務付けられています。これが確実になされれば、実働医師の把握はしやすくなります。
 これは、亡くなった後の話ではなく、あくまで現在生きている本人の義務ですから、これを怠っているのは医師が悪いということになります。しかし、これもなかなかやっかいなシステムです。僕は今まで、所属している医局の秘書さんが届け出をしてくれていたみたいなのですが、仮に医局を辞めた場合、おそらく忘れてしまうような気がします。そもそも、医籍に登録してあり、健在の人間が全て医業に携わっているとも限りません。医業以外の職についていたり、病気で療養していたり、高齢で引退しているような方々は、恐らく高い確率で、この届け出を失念しているように思います。
 そもそもの「医籍」自体が、上記のような問題を抱えているものなのですが、そうした事実を世間に明らかにするということも覚悟の上で、厚生労働省がネット検索導入を急いだのか、それともふたを開けてみてびっくりということなのか、今後の動向が気になるところではあります。
 ちなみに、この検索システムは、行政処分の情報も表示されます。一応、停止期間が経過した後は、再教育研修が未修了の場合を除き、当該情報は表示されなくなることになっています。ネット上の医師たちは、しかしこの点において、システムの不備や情報管理の不備から、行政処分の情報が一生付いて回ることになるのではないかという心配の声があがっています。そもそも、おそらく、世論としては「現在の行政処分」ではなく、「行政処分歴」を開示せよ、ということになるのでしょう。
 僕自身は、こうした点においては、ある程度までは已むを得ないかな、とも思うのです。やはり、それだけ責任の重い職業であるのです。あまり医師が騒ぎすぎると、「身内の不祥事を隠したい」というようにとらえられてしまう可能性もあります。
 もちろん、その前提には、行政処分が適正になされなくてはならないということがあります。現行では、理不尽な裁判や逮捕がまかり通り、安易に行政処分を乗っけるというような状態であるとも感じますので、いろいろ問題を孕んでいることは確かですけれど。また、医業に関連した過失による「行政処分」が、その他の犯罪による「行政処分」と一緒くたになって検索されてしまうことも、どうなんだろうな、とは思います。
 個人的には、前々から述べているように、医療に限らず「過失」を裁くということについては、かなり否定的な立場ですので。なんらかの処分は必要な場合もあるでしょうが、今回のシステムだと、その処分が、同時に社会的に「裁かれる」状態にもなりうるので、これを稼働させるのであれば、行政処分はより慎重に行わなくてはならないと思うのです。厚生労働省は、行政処分も重くしていく方向のようですが。
http://www.asahi.com/health/news/TKY200703050245.html

厚生労働省は新年度から、医師や歯科医師に対する行政処分を厳しく見直し、従来の「免許取り消し」と期限を区切った「医業停止」に加え、過失の小さい医療ミスなどに適用する「戒告」を新たに設ける。行政処分はこれまで、一定の刑事責任を問われていることなどが前提だった。今後は処分対象者を広げる一方で、処分を受けた医師がミスを繰り返さないように再教育を義務づける。

医療を刑法で裁くな

http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060219#p2