休日のお仕事

 3人で仕事を回している関係もあるし、まあ外科という仕事柄というかなんというか、週末完全に休めるということはほとんどありません。でも今の職場ではある程度当番をしっかり決めていて、当番では無い日にまで出勤の圧力がかかるということは無いのでそれだけでも非常に有り難いです。
 かつて働いていた野戦病院的な施設で、当番以外の日にもなんとなく出勤圧力を感じながら、せめて好きなだけ寝ることで疲労を回復しようと、午後に顔を出したりしていたのですが、それは良く思われてはいませんでした。ある上司に、酒の席で「術後毎日病院来られないのなら外科医なんてやめてしまえ」なんて絡まれたりしていたものです。その上司は理想の外科医とは云々と御高説をとなえておられましたが、僕からみればその上司自身が決してきちんとした仕事をしていたとは思えなくてげんなりしていたものです。
 僕自身も、外科医局の洗脳システムの末端として存分に踊らされ、夏休み以外に一日たりとも休みをもらえず、睡眠時間も極限まで削られた環境で研修生活を送った流れで、少し下の研修医の働きぶりに到底満足できずに、奴隷的労働の指導をしてしまった過去があります。仕事へのスタンスとしての部分では、その黒歴史的指導の根幹の思いは今も変わらないのですが、休息や余暇の権利は十分に与えられるべきだと今では確信しています。一部の上司たちに味わわされたような理不尽な思いを後輩たちに継承したくはありません。
 現状、土曜日には回診およびオンコールの当番が当たることが多くて、日曜日は休めることが多いです。上司たちは、当番の日に割と早い時間に病院へ行っているようですが、僕はそもそも早起きということが大嫌いだし、その日の検査結果などそんなに早く出るわけでも無いので、休日の当番の日は、いつもより大分遅い時間に家を出ます。特にこんな寒い季節は、遅めに家を出られるだけでもしんどさが全然違います。
 休日はあくまでも休日であり、病院の体制も平日よりは人が少なくなっているので、採血やレントゲンなどの検査、処方などはなるべく平日に行うべきだと思っているので、重症とか急患とかそういうことを除いて、休日にそういったことを予定しなければいけない治療の組み方はおかしいと個人的には考えています。術後の検査などは、そうも言っていられないし、理想的には病院の「休日」を無くして医師も含めた職員がシフトを組めばいいのでしょうけれども、そこまでの人的余裕は無さそうです。
 少なくとも病院に休日が存在する体制である限り、その日で無ければならない大きな理由もなく、休日の検査でその日の退院を判断させるようなのはあんまり好きじゃないのですけれども、そういう予定が少なからず組まれます。そうなるとその判断をするために休日でありながら出勤時刻がある程度規定されてしまいます。
 患者さんや家族への説明というのも、緊急の場合を除いて、基本的には勤務時間内に行われるべきものだと思っています。患者さんの家族が平日の日中に病院に来られないというのは、何度か言っているように、平日の日中に時間をもらうことができない日本の労働システムの問題であって、その人たちが仕事が終わったあとまで窓口を開けていない側の問題ではないと思っています。ある労働の時間が終わったあとに窓口を開けているためには、その時間に労働する人をつくるわけですし。夜は夜として、休日は休日として過ごすべきで、過剰に24時間化した社会は不健全だという思いはずっと変わりありません。まあ、実際には休日に説明の時間をつくることが多くなってしまうのですが、それが当たり前になってしまうと要求がより酷くなっていくのも経験していますので、あくまでも「特別ですよ」というニュアンスを漂わせるようにしてはいます。結果として相手の要求を呑むわけですが、はねつけるでもなく、ともすれば自分だけ特別に配慮してもらったと思って頂けるかも知れないし、これはきっと相手も気分が良いのではないかと思うのです。
 今日はゆっくりめに起きて、創の処置の方を救急外来で診て、病棟回診し、一つの命が天に召されるのに立ち会い、遅い昼食をとって帰宅し、宅急便でパーカーの万年筆を受け取りました。明日の朝までオンコールなので基本的に遠出は出来ません。そうしてなんとなく自宅で過ごすうちに日曜日になることが多いです。目覚ましをかけずに寝ていられる日というのが、僕にとって至福でありとても大切な日なのです。明日の朝というのは待ちに待ったその時であるのですが、その翌日からはまたお仕事が始まるのです。