「タイムカプセル」-0368-

 物が捨てられない子供でした。今もですけれど。

 その原因の一端は、僕がどうでもいいことをなかなか忘れないということが担うのです。幼稚園の時に作った紙芝居の内容も、小学生の時に友達にもらった手作りのおもちゃも、とにかくそういう思い出を鮮明に覚えていることに加えて、他人からみたらただのゴミに過ぎないような、その思い出に絡む品々を、決して優先順位をつけられずにしまってあるのです。

 当然、その保存状況もなかなか忘れないのですが、何度か両親の「掃除」という名の手入れにあって失われたものも多く、その度に言い知れない哀しさを覚えるにつれ、さらに物の捨てられない子供になっていくのでした。買えないものを失うことに対して、異常な恐怖を覚えるようになったもともとの理由は良くわからないのですが、失うことの哀しさを忘却できなかった幼児体験を経て、未だに失うことを恐れる人間なのです。物質社会の象徴のような。

 メールとかテキストのデジタルデータに至るまで、その保存に拘るあたりも、そこらへんからの流れだと思うのです。はっきりいって、この性格は疲れるだけなので、思い切って一気に何かを捨ててみるのもいいかも知れません。思ってるだけですが。

 そういう意味では、いままでの全て、自分の恥ずかしい過去すらも消却できずに抱えてきたわけで、そういう全てをひっくるめて、タイムカプセルなのです。ところで、1985年のつくば博の際、21世紀に自分のもとに届くポストカプセルという企画をやっていました。確か僕は、住所変更のこととか、そういう面倒くさいことを小学生のくせにいろいろ考えたあげく、結局何も書かなかったのでした。

 大きなニュースにはならなかったものの、そのつくば博のポストカプセルが、どうやら続々と配送されているみたいです。何も書かなかった僕の手元には、もちろん何も届きませんが、期間終了間際には捨て値で売っていたり、あるいはただで配っていたというつくば博のイメージキャラクター「星丸くん」グッズの数々は、そういえば親の手入れを逃れて実家に残っているのです。