「医師免許お待たせ致しました」-0421-

 蕎麦屋の出前じゃないのですから、「今出たところです」とか言うのはやめてほしいのです。僕が医師であることをかろうじて証明していた、医籍登録の確認の葉書、その2ヶ月の有効期限はとっくにきれているのに、厚生労働省からはなんの音沙汰も無いのです。

 さすがに仕事先の書類関係に支障を来すので、保健所に電話してみたのです。

「すいません、医師免許ありますか?」
「いや、まだこちらには届いておりません」
「じゃあ、厚生労働省にまだあるんですか? きいていただけますか?」
厚生労働省にですか?」
「ええ。来てないってことは厚生省がさぼってるってことですよね」
「いや、あの。じゃあ、一応きいておきますので」

なんて微妙なやりとりをして折り返し電話をもらい、「本県分はすぐ発送するそうなので、今週末か、遅くとも来週中には届くと思います」なんて言われてからさらに待つこと数週、なんだかしまうのがめんどくさそうな免許が届きましたよ。これで僕が大学から日給九千円もらう日雇い労働者になるための書類が全て用意できるのですよ。

 ふと気がつくと、もう夏も過ぎ行こうとしていますが、僕にもようやく初めての休日が与えられました。激務から一瞬だけ身を引いたとき、初めて自分を振り返ってみる余裕を得るのです。なんだか一瞬のことのようなことにも思え、とてつもなく長い日々だったようにも思うなんて言うのは、卒業式のときにでも使う常套句ですけれど、それに近い思いを、この数ヶ月間の出来事に重ねるというのは、やはり研修医時代の一日一日が、後々僕が医師として形をなすための土台として、いかに重要かということを、改めて思い出させることになるのです。

 人間は生まれてからたかだか80年くらいしか生きないとはいえ、胎内で46億年の進化の過程を猛スピードで刻むのです。医者の胎児時代の成長が芳しくないまま、研修医という時間を終えて、時の流れの違う場所に生み落とされるわけにはいきません。限られた時間の中、どうにかくらいついていこうと思うのです。