「東京への距離」-0445-

 ハッピーマンデー。月曜日に休みが集中するのはなにかと不都合なんですが、とにかく今日が体育の日らしいです。

 医学部の軽音学部のライブをちらっとのぞいて、「半宇宙」というバンドのライブへ。バンドのベーシストは、事あるたびに呑んだり遊んだりした仲の良い後輩で、今年、工学修士課程を終えて就職のためこの地を離れます。

 僕は、家族の中で唯一東京に住んだ経験がありません。高校まで過ごした地も、その地に隣り合う地での大学生活、研修医生活も、いわゆる地方での生活になります。東京以外はみんな地方なんだから、確率的には地方で過ごすことが当たり前のようにも思えるのですが、人口にまで目を向けると、都市生活を送ったことがないというのは、かえって少数派のようにも思えます。

 公務員になるとか、保育士(保母・保父)のような資格を生かし、なおかつ地方にも必ず必要な施設に勤務するとかいう以外、本当に地方には就職がありません。僕らは、医師という国家資格があり、かえって地方の医師は少ないという現状から、大学を出て、そのままその地方に勤務することは決して難しいことではなく、かえって安易な道でした。しかし、同じ医学部内でも、医学科以外の医療技術系の学科は、看護をのぞいて全国に目をむけても就職は結構難しいようだし、他学部の人間も、企業に就職するような場合は、東京に目を向けねばならないようなのです。

 僕の高校時代の友人たちは、地元の国立大学に進学した人と、東京近辺の大学へ進学した人に大きく二分され、僕のように、別の地方の大学にすすんだ者は少数派でした。その後地元に戻ったり、地元の大学を出てそのまま地元に残っているという人の多くは、公務員や地元マスコミなどに就職したようです。あるいは実家から東京へ新幹線通勤をするとか、東京にしばらく住んではいたけれど、思うように仕事に就けず、とりあえず帰郷した人々などで、僕が今、帰省したところで、地元で会える友人は限られているのです。

 僕は次の3月まで今の病院に勤め、4月にはまた新しい病院へ勤務します。いくつかの病院を除き、関連病院はほぼ県内に限られ、おそらく車を少し走らせれば大学に顔を出せる距離で毎年引っ越しをするのだと思います。転々とするから、その土地土地でどれくらいの新しい人間関係が築けるのかわからないけれど、6年も通った大学時代の人脈は働くようになってからもかなり濃い人間関係として引き継がれています。

 普通の仕事をしていれば、休日を自由に使えるだろうし、東京くらい行こうと思えばいつでも行ける場所なのでしょうが、常にオンコール状態の僕には、もの凄く遠い地で、みんな東京に出ていってしまうことに、かなり寂しい思いをしています。僕は大学を卒業しても、そのまま大学で働いていたわけで、外に出ていった同級生との別れはあったけれど、後輩などとは別れることのない卒業だったわけです。卒業の別れの要素は、例えば僕が大学を離れれば一気に身に受けたわけですが、それをしなかったために、毎年、少しずつ別れが降って湧いてくるのです。

 自分の居場所を探しているのだと思います。なんだか拠り所がない生活のような気がしてきているのです。毎年流転することへの不安とか、かつて僕の周りを形成していたものが、バラバラになって遊離していってしまうことへの焦燥とか、とにかく僕が音楽というものに持っている思いは、その音楽そのものだけでなく、その音楽にまつわる人間関係とかそういうこと全てに対する愛なんだと思うのでした。