「お医者のタマゴクラブ2(仮題)」-0515-

 本になったお医者のタマゴクラブは、僕の医学生時代のものですが、その後、責任のある立場に放り込まれて、二年間の研修医生活をした上で、理想と現実との中で揺れ動く思いもまた、意味のあるものかと思い、出版の見込みがあるわけではないのですが、「お医者のタマゴクラブ2(仮題)」をまとめてみました。

 医師国試以降の僕の日記やメルマガを再編集しただけなんですけれど。医学生時代の「お医者のタマゴクラブ」のときもそうだったように、別にウェブ上のログを抹消するとかそういうつもりはありません。ただ、今回本にしてみて、やはりウェブを飛び出した表現というものの素晴らしさを感じたし、何よりも僕が活字を愛しているのにも気付きました。

 初版の出版社在庫はとうに無くなっていて、問屋とか大きな書店をいったりきたりしている分しか流通していないので、せっかく興味を持ってくれながら入手できないでいる人には申し訳なく思っているのですが、増刷とかそういうことになると、完全商業ベースの考え方になってきて、出版社判断になってしまうので僕にはどうしようも無いのです。文芸社に増刷や続編希望の声を寄せて頂くとか、書店に返品待ち扱いで注文を入れて頂くとか、嫌がらせにならない程度にしていただけると嬉しいですけど、まあ、とりあえず一冊は本を送り出せたことに満足しているし、初版で終わって大赤字だったとしても、それはそれで構いません。

 ただ、再び僕も費用を負担するような「協力出版」の形をとるのは厳しいと思うので、出版社の完全企画出版がかなわなければ、次回作はウェブ上での発表にとどめるか、あるいは、個人作成して、ウェブ上で販売というような形をとるかと思います。「2」は、最近の日記のように、少しくどい主張が多いし、中には嫌悪感を抱かせてしまうような表現もあるかも知れないので、どれくらい一般需要があるかわからないのですが、興味がある方がいらっしゃいましたら、メールなり掲示板なりで声をかけて頂けると嬉しいです。

 ちなみに、「2」のあとがきらしきもの。とりあえず、研修医二年間のまとめとして。

 僕はただ外科医でありたいのですが、外科医である以前に人間です。いろんな可能性も感じるけれど、それと同時に人間としての限界も感じています。僕の範囲の中で、しかし僕は良き外科医でありたいし、自分の生活も守りたいと願う、一人の小さな存在に過ぎません。聖人君子はあくまで雲の上の存在です。

 そういうことを考えるのは、ある意味、純粋さを失ったことなのかも知れませんが、実学としての医学、すなわち医療を実践するためには、その背後にある全て、人的なもの、物質的なもの、システム、経済、そういう現実に目を向ける必要があります。いくら崇高な理想を掲げたところで、それが実践可能であるかということは常に考えなくてはなりません。医療を受ける人々も人間ですが、医療を施す側も人間で、もちろん医は仁術という精神の中で動くわけですが、無限に何かを求めることはできません。

 医療不信の時代です。医療を受ける側が、いろんな声をあげはじめたのは歓迎すべきことですが、それが行き過ぎたり、変質してしまったりしたとき、様々な問題が生まれてきます。現に、患者のたらい回しに近いことが起き始めています。専門外だとか、時間外の救急患者を、仁の心で診たところで、結果が思わしくなければ、すぐ訴訟を起こされる時代です。医師たちは、無用なトラブルを避けようと、難しそうな症例に、突っ込んで取り組むことをなるべく避けようとし始めます。それは、結果として、権利を求めはじめた患者さんたちが、かえって自分たちの首をしめることとなったわけです。

 今後、医療がどこへ向かうのかは不透明ですが、医療従事者も、医療を受ける人々も、より良い医療を求めているのは確かです。聖域、聖職として捉えられる領域に、「賃金」だとか「休暇」だとか、あるいは「限界」だとか、そういう論理を持ち込むことに嫌悪感を感じる人がいまだ多いことは分かっています。しかし、きれいごとだけでは何も前へすすんではいきません。もっと、現実的なことに目を向ける必要があると思います。

 医療を介して対面する双方が、お互いを人間として捉える必要があります。いままで叫ばれたのは、医師がもっと人間的であるべきだとか、患者さんの気持ちを知れというものです。僕は、それと同時に、患者さんの側が、医師のきれい事ではない本音を知ることも大切だと思います。

 聖人君子では無い僕らが、何を思って外来に出ているのか、病棟を回診しているのか、それを知ってもらえれば、僕らのよりよい関係のために、何か良い結果を生むのではないかと思うのです。

 医学生という医療に責任の無い状態からみた前作とは違って、研修医という立場から綴った本作は、少し汚い部分を描いているかも知れません。あるいは、僕自身が少し汚れたと感じる方があるかも知れません。ただやはりこれは、僕の研修医二年間のリアルな感覚であって、この時しか綴れない思いです。

 またこの思いの上に、僕は僕なりの時を刻んで行きます。また、機会があれば、その思いを綴ってみたいと思います。

 追伸。僕の本が、WEEKLYぴあ2003年08月25日号284ページに紹介されていたようです。全然気付かなかったのですけど、情報を得て、先日大学の図書館で確認しました。こうやって、ネットを飛び出したところで展開があると、本を出してよかったな、と思います。