医療におけるオノマトペ

http://blogs.yahoo.co.jp/akihito_suzuki2000/50424077.html

守山恵子が使ったのは、江戸時代の医学教師が弟子たちに口述で教えた内容が、そのまま記録された医学書である。これは口述筆記だから、先生が口で説明したことがそのまま書きとめられている。当時の書き下ろされた医学書では、オノマトペ(擬音語・擬態語)は稀だけれども、この書物は口述だから数多くのオノマトペが現れる。全部で150種類、のべ291語が使われているという。 「ガッハリ」「キックリ」「サッハリ」などなど。

そして、この鍵は、実は日本の医学史研究だけが恵まれているものである。日本語にはオノマトペが多く、日本人が外国語で病気を医者に伝えるときに一番困るのが、痛みのオノマトペだそうだ。 逆に、外国人の医学生が一番困るのが、日本の患者のオノマトペだそうだ。 そんなものは、医学教科書には書いていないから。 言語学者で、外国人学生に日本語を教えている守山ならではの視点である。 

 こういう話はとても興味深い。臨床において問診というのは非常に重要なものであり、日本の病院における外来というのは、オノマトペが頻用される場所でもある。医師たち自身が、自らは感じたことのない症状を、幾多の患者が表現するオノマトペによって理解し、解釈していることも多い。
 使用されるオノマトペには年齢による偏りとか、地域差といったものもあるので、この点は注意が必要だ。例えば、他の表現に比べ、オノマトペは幼児期にも習得しやすい言葉であるから、幼児も簡単ないくつかのオノマトペを使い分けて自分の症状を表現しようとする。しかし、それを大人の表現と全く同一にとらえてしまうと誤診してしまうこともある。あくまで自分の知っている言葉の中から選んでくるからである。しかし、ただ単に「痛い」と表現されるよりも、僕らはたくさんの情報を得ることができると思う。
 僕が研修医二年目の時に赴任した病院は、僻地と言ってよいところだったと思う。地域によって、解剖学的用語を方言で言うのみならず、症状に関する表現において、様々な独特な方言が使われた。それらは、単純に標準語に翻訳できるものばかりではなかったし、標準語としてはあまり使われないであろうオノマトペも含んでいたように記憶している。残念ながら、具体的にどんなオノマトペが用いられていたのかは失念してしまったのだが、赴任当初は、救急外来での患者の訴えを、看護師に翻訳してもらわないと理解できなかったことを思い出す。